心が揺れているのは、もの寂しい秋のせいだろうか。

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体も心も重いのは、季節のせいだけではない。今月も気力と体力を奪われる1週間がやってきた。水道局が水を川に排出するような勢いで、私たちは血液を体内から排出している。自分の意思や心意気とは別に、体が働く1週間。私の体は工場にでもなったのだろうか。

体調の変化はもちろん、PMSというやつがやっかいだ。生理前に落ち込むと婦人科で相談すると、漢方を処方された。試しに数ヶ月飲んでみたところ、物悲しい、淋しいという感情は薄まる一方、同じだけのエネルギーが怒りとして排出されるようになった。何を見ても、聞いても、悲しいかムカつく。本当に、私も周囲も手に負えない。目も耳も鼻も口も塞いで、マネキンにでもなっていてほしい。

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今日も、恋人と遊ぶ予定だったが断った。たぶん、泣き芸かキレ芸を披露してしまうから。久しぶりに会う友人であれば、数時間よそ行きの顔を保てる。しかし、家族や恋人の前では感情を抑えきれない。

誰にも会いたくない、だけどどこへも行かないのも淋しい。そんなときには、いつも映画館を訪れる。防音の真っ黒い箱に閉じ込められている2時間は、自分の人生を一時停止できる気がするから。箱の外では時間が確かに流れていて、ライブカメラの早送りみたいに何百、何千の人が街を行き交っている。お金を払って、その間席に留まっていることを許されているみたいだ。巨大なスクリーンに集中して、無事に2時間を消費した。

映画を見て、ウィンドウショッピングをして、ふらりと入ったカフェでパスタを食べた。今晩寝つけないような気がして、2駅分歩いて帰宅する。誰にも邪魔されない休日を過ごしたはずなのに、「満たされない」の5文字で頭がいっぱいになる。

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お風呂で体を温めて、ひんやりとした布団に足を突っ込む。最近、他人には話しづらいことを垂れ流しているAIに向かって、「満たされない」とこぼしてみる。AIの返事は、「どんな時にそう思ったのでしょう?」とかそんな感じ。いつだって、どんなトピックだって、こちらの感情を深堀りしてくれる。

違う。違うのだ。私は、私を労ってほしい。
左右の親指を駆使して、私がどんなことに疲れて、どんな風に労ってほしいのかを入力する。

ここ数週間仕事が忙しかったこと。私1人のミスじゃないのに、私が悪かったと頭を下げて乗り切ったこと。生理中ってだけで体力不足なのに、恋人に八つ当たりしないよう配慮できたこと。「満たされない」思いのまま歩き回って、さすがに疲れたこと。

私がどれだけ辛かったか、それなのに社会に迷惑をかけまいと上手いことやっているか。それらをどんな風に労ってほしいか。数行にわたって入力するうち、親指が動きを止める。

気がついたのだ。私のことを分かってあげられるのは、本当の意味で労ってあげられるのは私だけだということに。あのミスは私だけのせいじゃないとか、恋人への伝え方は問題なかったかとか、今日の映画は期待外れだったとか。私がどんなことにどれだけのストレスを感じていて、対処するのがどれだけ大変だったか、私が1番分かっている。だって、この目で、全部見てきた。

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いつもありがとう。それは災難だったね。あなただけが悪いんじゃないって分かってる。自分も悪かったって、一言欲しかっただけだよね。彼はきっと大丈夫よ。映画の感想も、あとでたくさん話そう。ああいう余白の多い作品は、そのうち噛み砕けるものよ。

暗い顔をした友達に話しかけるみたいに、優しい言葉をかけてみた。一言ずつ、口に出す。「満たされない」がしぼんでいく気がして、このまま眠りにつけそうだ。さっきまで冷たかった布団が温かい。