私が看護師として働き始めて、もうすぐ5年になる。
大きな病院は、各部署が担当する科によって、看護師の仕事内容は大きく変わる。私が新卒で就職した病院は、はじめに行われるオリエンテーション後、配属部署の希望がとられた。

配属されたのは第二希望のNICU。3年目のある日、急に涙があふれて動けなくなった

私は小児科を熱望していたが、配属されたのは第二希望の新生児集中治療室、通称NICUだった。NICUを簡単に説明すると、病気をもって生まれた赤ちゃんや予定日より早く生まれた赤ちゃんに治療を行うところである。
私はしばらく落ち込んだが、気持ちを切り替えてNICUで働き始めた。子どものように話したり動いたりできないが、かわいい赤ちゃんと関わることができるのだから、と自分をなんとか奮い立たせた。

1年目は記憶にないぐらい、がむしゃらだった。覚えなければならないことや課題が多く、夜勤がある生活に慣れるのにも必死だった。
やっと少し慣れてきた2年目の後半にはもう、リーダー業務を覚えなければならなかった。リーダーは当日のメンバーの中で決められ、業務が円滑に進むよう調整したり、何かあった際の司令塔になったりしなければならない。まだわからないことやできないことが多い中リーダーを任せられるのは、私にとって大きなプレッシャーだった。

3年目になって少し経った頃のある日、私はリーダーだった。ロッカーに荷物を置いて準備をしていたら、突然涙があふれ、動けなくなってしまった。自分に何が起こっているのか、自分でもわからず戸惑った。近くにいた先輩に心配され、師長にもその日は一旦帰宅するように言われた。
なんとか帰宅したが、自分はどうしてしまったのかという不安、周りに迷惑をかけたという罪悪感などでいっぱいだった。プレッシャーに耐え切れず、ぎりぎりで保っていたものが決壊したのだと思う。師長には一度精神科を受診するよう言われ、診断書をもらい、しばらく休職することになった。

休職ののち、少しずつ回復して気付いた。私には仕事が必要だった

自宅でぼんやりとする日々が続いた。要領の悪い自分を責めたり、周囲に何と言われているか気にしてしまったり、これからどうすればよいのか不安になったりと、様々な思いが頭の中を駆け巡っていた。
同時に、NICU看護への未練も出てきた。いつの間にか赤ちゃんの魅力にはまっていたことに、ここでようやく気づいた。

しばらくゆっくりと過ごすと、心身ともに少しずつ回復していった。
しかし、その後に辛くなったのは、「仕事」という時間軸が抜けたことで、どのように日々を過ごせばよいかわからなくなってしまったことだった。仕事をしているときは休みがあったらしたいことがたくさんあったのに、いざ休みだとどれもあまり気乗りせず、実行したとしても心は満たされなかった。働いていない自分に後ろめたさを感じていたのかもしれない。
休職してはじめて、私は仕事を中心に生活しているからこそ、休みに友達と遊ぶのが楽しかったり、たまに贅沢をした食事が美味しかったりするのだと気づいた。
私には仕事が必要だった。

「ゆるく」働く。NICUで再起した私は、自分なりの働き方で働いていきたい

今、私は再びNICUで働いている。転職活動をして職場は変えたが、NICUで働くことはまだ諦めきれなかった。では、どのようにして再起したのか。
前回、心身ともに壊してしまった経験を活かし、いい意味で「ゆるく」働くことを心がけている。「ゆるく」とは、人に任せるところは任せ、適度に手を抜くところは抜き、こだわりすぎないということだ。仕事に対する信念はなくしてはいけないが、無理をしたり意地を張ったりせず、できる範囲でのみ行動する。すべき仕事が終わったら、さっと帰る。すると、仕事時間は全力で取り組み、プライベートはできる限り仕事のことは考えないというように、しっかりとメリハリがつけられるようになった。

相変わらず夜勤はあり忙しいが、前の職場よりも時間の融通が効きやすくなったため、すきま時間や休みを以前よりも上手く楽しむことができている。今特に楽しいのは、仲の良い友達とたまにする持ち寄りおうちごはん、それから、毎日豆から挽いたコーヒーを飲むこと。心がほっと安らぐ瞬間だ。

今の私にとって「働く」とは、NICUにおける自分の可能性をもっと磨くためと、自分の生活における軸をもって、仕事以外の楽しみをより楽しむためにあるものである。
熱望した小児科になれず、落ち込んだ。プレッシャーで心身ともに壊れ、休職もした。
でも、これらの挫折を乗り越えて考え方や行動を変えたからこそ、今の自分がある。挫折は、全く無駄ではなかった。逆に、あのまま突っ走っていたら、きっと働くことに対して疲労や面倒くささしか感じられなくなっていただろう。
きっとこれから、自分の変化とともに、自分にとっての働く意味も変化していく。その時々で何を大切にしたいのかを見失わないようにして、自分なりの働き方で働いていきたい。