どうして、みんなうまくやれるのか、さっぱり分からなかった。
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新卒で銀行に入った頃、まわりの同期たちは仕事をして、好きな人とデートをして、セックスをしていた。性格も、育ちも、家庭環境もいい。生きるのが上手な、バランスのとれた人間ばかり。私は仕事はめちゃめちゃで、デートする相手はいなかった。
それでも私には、好きな人がいた。彼は同期で、違う店で働いていた。月に何とか飲み会で顔を合わせる程度の仲だ。それ以上でも、それ以下でもない。
彼はどこか大きな夢を諦めた後のような、気だるい雰囲気を漂わせていた。関西弁がセクシーだった。そして大学1年生の頃から付き合っている彼女がいた。
「どうせ、私なんか無理だろうな」私はそう思っていた。だから「いいな」と思いつつ、彼に想いを告げることはなかった。友達にもあまり話さなかった。彼も彼女も頭のいい大学に行っていたし、その彼女は金持ちだった。私なんて釣り合わない。そう思っていた。
あの頃の私が略奪愛に向かうには、学歴が必要だった。金持ちの両親も必要だった。私は何もなかった。目下のところ、私にあったのは「若さ」だけだった。だから、その若さを使って遊び続けた。むくわれない恋心をごまかすかのように。
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色々あって、私は銀行をやめた。次の会社もうまくいかなかった。そしてフリーランスになった。彼は銀行に残り続けて、どうやら偉くなったらしいということだけは知っていた。
約10年の歳月が過ぎて、たまたま彼と飲み会で再会した。彼の左手の薬指には指輪が光っていた。大学時代の彼女と結婚したんだな、と思った。しかし、彼は言った。「え? あの彼女は、だいぶ前に別れたよ」
彼によると、次々と別の彼女を作り、今の奥さんにたどり着いたらしい。今の奥さんの学歴は、レベルで言うと私が卒業した大学に近い。職業も(「同じにするな!」と怒られそうだが)ある意味では、私と似ている。
それを聞いた私は、10年前に戻りたくなった。当時の私に往復ビンタをして、こう言ってやりたかった。「どうせ私なんか無理って思ってるだろ?そんなことないから、やってみろ!」と。
もちろん、がんばったところで、好きになってもらえるとは限らない。正直言って、まず無理だろう。
私は恋愛が下手だ。以前、占い師にこう言われたことがある。「あなたは他人と一対一の関係を築くところが、致命的にできない人ね。もし今の人と別れても、次の人とも絶対にうまくいかないわよ。相手を変えても無駄。そういう星回りの元に生まれたから」と…。
どうせ破滅に向かう運命でも、「やってみてダメだった」と「やらずにダメだった」は違う。同じ「ダメ」でも、そこには天と地ほどの差がある。こうして10年経って再会した時も、傷がうずくのだから。
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10年後の女の子に伝えたい。10年前を振り返った時に「どうせ私なんか無理だ」と思い込んで、諦めたことはないか? と。
10年前の自分、それは、すなわち「今」だ。諦めていることは、10年後に「やっておけばよかった!」へ絶対に変わる。だから、怖がらずにやってみてほしい。
私のようにずるずると、いつまでも癒えない傷を引きずって生きるのも、もちろん個人の自由だけど。やっぱり何歳になっても、うまくやれない。これは星まわりのせいだから仕方ない。