ぶらんこが漕ぎたくなった。大学4年生にもなって幼少期に好きだったぶらんこを突如漕ぎたくなった。
一緒にぶらんこしよう。なんて2回目に会う人に対する誘い文句としてはかなり下手くそだし、「え、無理」って返ってくると思ったのにすぐに「いつ行く?」って返信してくれたあたり貴方を選んで良かった、私よくやったって心の中で思いました。
ぶらんこのことを「公園に生えている」と言う貴方は私には無い優しさやぬくもりを持っていて、本当にありがたい存在であります。
貴方は私の自分からなかなか誘わないところとか、素直じゃないところとか、全部まとめてかわいいと言う。多分子どもを眺めているような「かわいい」だけど、私としては色々と受け止めて引き受けてくれている貴方と居る時間はとても心地よい。
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ぶらんこを漕ぐ前にぶらぶら散歩をしてどのぶらんこが良いかなって1時間くらい吟味しつつご飯を食べる場所を探したね。
歩きながら話していると話している人の方向に寄ってしまう貴方の癖はとても愛おしいことを知ったよ。貴方は鬱陶しいってよく言われると言っていたけれど、おいていかれるよりも横で歩いてくれる方が私は嬉しい。
あ、でも街中でスケートボードをしている人達の輪に入りたいっていうのはちょっと怖かったからやめてほしい。まあ、その後酔ってないと無理って笑って言っていたのが貴方らしいけど。
貴方とカウンターに座って飲んだお酒は少し濃かった。お酒が好きな貴方の横に居るといつもよりもたくさんの種類のお酒を一口ずつ貰えてなんだか一気に大人の階段を登っているような気分になる。
いつもは頼まないアサリの酒蒸しの美味しさに感動したりお酒の混ぜ方を教えてもらったり、私には無かった世界の楽しみ方を教えてくれて本当に楽しかった。
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ああ、そうだったぶらんこの話をしないといけない。
実は私はぶらんこ酔いをする。ぶらんこに座ってぶらんこを漕ぐことは多分物心ついたその瞬間から好きなのだけれども、私の三半規管はどこか敏感でぶらんこからくる揺れに長時間耐えることができない。だから、ぶらんこを漕ぎに行ったのに実際にぶらんこを漕いでいる時間は多分10分くらいであったと思う。
ぶらんこにただ座って話をして、その時間のほうが遥かに長かった。その時間にこそ今の私は価値を見出しているのかもしれない。
ぶらんこの上に居るとなんだか童心を取り戻したかの様な気分になる。私がいつも着込んでいる鎧が幾分か軽くなり、日々の生活に追われている実感が少しばかり薄れる。
こんな時間が欲しかったのかもしれないと少し思ったりした。
後は貴方と居る時間がとても穏やかになる時間を求めていたのかもしれない。
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秋の始まりで風が涼しかった。夏が長くて衣替えの時期がよくわからない私は、半袖で秋の夜の冷たい風を受けていた。
冷たい風は火照った体を心地よく撫でる。少しいびつででも明るい月が空には見える。なぜかお互い反対方向を向いてぶらんこを漕いでいて、後半話すのに夢中でほとんどぶらんこは揺れていなかったけれど、私の秋最初の思い出は貴方と漕いだぶらんこです。
どうやら今度は水族館に行くらしい。私は少し水族館が苦手なのだけれども、海が大好きな貴方となら楽しめる気がする。
秋の思い出もこれから来る冬や春の思い出も貴方と作りたいです。なんて直接言えればいいのにな。