前の冬、アロマオイルデビューを果たした。
私は物事を斜めに見ることでしか自らの存在意義を見いだせない終わった人間だ。なので、アロマオイルのようなカタカナの洒落こいた品のことは軽く見ていた。

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しかし去年、クリスマスに小さな加湿器を貰った。蒸気に赤いライトが当たることで、焚き火のように見せるというひと工夫ある商品。

実家では加湿器を使う習慣がなく、このタイミングではじめてその重要性を知った。私が住む部屋は狭いので、小さな加湿器でも効果がある。寝るときにつけておくと、朝起きたときの肌の乾きがマシに感じられた。

しばらくは普通に使っていたのだが、ふと、箱にアロマオイルを入れても使える旨の記載があることを思い出した。使える機能は使い尽くさなくては。謎のもったいない精神がはたらき、「オレンジスウィートの香り」とされる1000円以下のオイルを購入してみることにした。

いつも通り水をいれ、そこにオイルを2滴ほど垂らしてから電源を入れた。すると、部屋のなかに柑橘系の香りが広がっていく。

なんだか、思いがけない充実感を得られた。いつも過ごしている、散らかった1LDKの室内。しかし目をつむると、ハイソな雑貨屋にいるかのような感覚になれた。
1000円しないくらいの品で、こんなに良い気分になれるなんて。元々侮っていたくせに、あっというまにアロマオイルの虜になった。結局、昨冬はベルガモットとミントの2種類のオイルも買い足した。

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加湿器を使わずとも、アロマオイルを楽しむ方法はある。ディフューザーとか、ストーンに垂らすとか。しかし、それらを買う気があまり起きなかった。

炎を模した水蒸気とともに、ふわりと広がる香りが好きだった。それに私は、家に置くモノをあまり増やしたくない主義の人間でもある。

乾燥どころか湿度が気になってくる初夏のあたりから加湿器を使わなくなると、アロマオイルの出番は無くなった。

もうすぐ10月が終わり、11月が来る。
私が住んでいるのは北海道なので、既にだいぶ寒い。ある日とうとう耐えきれず暖房をつけると、乾燥が気になった。置き時計に内蔵されている湿度計も、30%台を示している。久々にしまってあった加湿器を出してきて、起動した。やはり良い。最初に購入したオレンジスウィートのオイルを垂らしてみた。良い。加湿器単体でも良いけど、香りがあるとより気分が上がる。

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約1年ぶりに、アロマオイルライフを再開できた。結構うれしい。
モノが床に散らばっていようが、ゴミ袋が溜まっていようが、絡まったコード類が部屋の真ん中に鎮座していようが、瞳を閉じればオシャレ空間にいる気持ちになれる。

そんなのはいいから早く片付けなさいな、という感じなのだが、ヘラヘラ生きている私にはこのような現実逃避タイムが必要なのだ。

今年はどんなオイルを買い足そうか。昨日ロフトで見かけたシャンパンの香りも良いかもしれない。寒く長い冬のなかの、唯一の楽しみだ。