異性との交際経験がなかった頃。浮気や不倫への印象は、窃盗や詐欺に抱くものに近かった。絶対的に悪いこと、してはいけないこと、という認識だった。
数人との交際を経た今も、良くない行いだという捉え方は変わらない。
しかし「絶対的」かというと、そうではないんじゃないかと考えることが増えた。
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浮気の定義は人それぞれだが、最上級に悪い行いは性行為だ、とされている場合が多いと思う。私にはそれが、ちょっと不思議だ。
性行為が一番イヤだ、と感じる人が多いのは、分かる。最も密着しなければ達成できない行為だし、普段他人には見せない部分を見せ合うことになるのだから。
でも、それが世の中のスタンダードになるほどに大多数がその意見を持っている、というのは違和感がある。
だって、性行為なんて互いの同意がとれれば出来ちゃうことなのに。しようと思えば会ったばかりの相手とだって可能だ。なにも積み重ねていなくたって、心が通じ合っていなくたって出来てしまう行為。
それ単体では一切特別感を持たないはずなのに、これほどまでに重要視されるのは、何故だろう。
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例えばSMプレイを極めているカップルがいたとして、その片割れが他の人ともSMプレイを楽しんでいた、とかなら悲しむのも分かる。2人で作り上げていっていたもののはずなのに、どうして……と思うのも無理はない。だけど、そういう事情でもない限り、性行為よりも侵入されたくない領域が他にあるのではないかと思ってしまう。
少なくとも私はそうだった。パートナーが出来て他人に愛情を抱く経験をしたからこそ、そう思う。2人での会話や空気感の方がよほど積み上げていった感覚があったし、壊されたり、余計な色を加えられたくないものだった。
もちろん、性的接触をともなう不貞行為全般を庇うつもりはない。少なくとも日本国内では、それをイヤだと感じる人の方が圧倒的に多いのだから。その前提を分かった上で行為に踏み切ってしまうのは、立派な裏切りだと思う。最も尊重すべき大切なパートナーの思いをないがしろにするなんて、決して許してはならない行いだ。
ただ、「性行為を外部でしても良い」という同意がとれていて、それに互いが心から納得しているのであれば、他人が責めるべきではないだろう。子どもがいたり、他にせねばならないことがあったりした場合は話が変わってくるかもしれないが。
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ここまで持論を述べてきたが、パートナー以外との性行為には、やはりリスクがある。
まず一つは性病だ。自分が外部の人間と接触をもったのならともかく、そうでないのに外から持ってこられたら、気分は悪い。
もう一つは、乗り換えられる可能性が生まれること。私はあまり分からないが、性行為をしたことで好意を深めてしまう、という人も多いのだろう。そうでなくても頻繁に会えば仲は良くなるだろうし。
これらのリスクを減らすためには、パートナーが性的接触を持つ予定の相手との面談を行った方がいいのかもしれない。
性病検査を受けてもらって定期的に結果を提出させて、相手の雰囲気や恋人の有無からパートナーに本気になる可能性があるかどうかを見極めて……。
突き詰めて考えていくと、やっぱりちょっと面倒くさすぎる。出来ないことはないかもしれないが、3者が誠実に対応せねば成立しない点も考慮すると、現実的ではない。
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「性行為をともなう不貞行為は許されない」
現代の日本でのこのスタンダードは、実は独占欲や嫉妬心によるものではなく、合理性から成り立っているのかもしれない。