「恥ずかしいところを見せてごめんなさい。避妊なんてしないんです。14や15で母になることは、スラムではいたって普通なんです」

2023年の2月、フィリピン・セブ島のスラム街に訪れた。国際問題に対する関心が人よりも少しだけ強い私は、社会人1年目の年に仕事の合間を縫って、セブ島のスラム街スタディツアーに参加した。

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滞在している5日間、毎日スラムに訪問した。訪問時は、セブ島の中でも裕福な大学生がバディとして参加しており、共に活動していた。みんなお金持ちで、就活のためにボランティア活動をしている子達だけと思いきや、バディの中にはスラム街に住んでいて、奨学金を借りて大学に進み、今はスラムからの生活を抜け出した子も何人かいた。

「事態は確実に良い方向に向かっている」

話を聞きながら、そんな確信を持っていた。

活動の前半では、3歳〜9歳くらいの子どもたちに炊き出しをしたり遊んだりして、フィリピンのじとっとした暑さの中たくさん汗をかいて動き回った。訪問の後半では子どもたちについていき、スラムに住む家庭にインタビューができる、フィールドワーク型のボランティアプログラムがあった

家庭訪問をする中で、私は、日本ではあまりないであろう状況を目撃することになる。というのも、向かう家のほとんどに、まだまだ若い10代の女の子が子供を抱いているのだ。大きくなったお腹を愛しそうに撫でる15歳くらいの女の子、2人の子どもがいる部屋でてんやわんやする、20歳手前の女の子などなど。

15歳で赤ちゃんを抱く女の子に、これからの未来について話を聞くと、「もう少しこの子が大きくなったら、私は大学にいきたいの。でもそのお金がなくて。母のような看護師になるという夢は絶対に諦めないわ!」とまっすぐな目で伝える彼女に胸を打たれた。

「Facebookを交換しましょう」とスマホを取り出す彼女を横目に、シティサイドのマンションに住んでいると話していたバディが「連絡先は交換しないでね」と私にそっと伝える。自分自身の夢や願望を伝えることで情に訴え、Messengerを通して、金品の送金を求めるケースがあるのだと言う。

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結局連絡先は交換せず、帰りのバスの中でバディに「どうしてどこの家にも若いママがいるの?」と聞いた時に伝えられたのが冒頭の言葉。

「恥ずかしいところを見せてごめんなさい。避妊なんてしないんです。14や15で母になることは、スラムでは至って普通なんです」

これを伝えられた時、どうにも言葉にしにくい感情になった。

「若くして母になることは恥?」
「彼女の夢は、お金が欲しいから言った嘘?」
「彼女はこの国の範疇で、必死に生きているだけじゃない?」

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次の日、同じようにセブ島の子どもたちと遊んだ時に、「みんなの夢を教えて!」と聞いてみた。「警察官になりたい!」「歌手になる!」「ドクターになってグランマの体を良くしたいの!」キラキラの目で話していて、夢を追っていて、純粋無垢とはこのことを言うのだと思った。

この声をたくさん聞いて、やはり私には、家庭訪問で出会った15歳の少女が、嘘の夢を語ったとは思えなかった。彼女が語った夢も、きっと子どもたちが話した夢の延長戦にある、純粋な夢だろう。そして何より、彼女が妊娠しているのも、恥ではない。

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しかし、やっぱり私は、彼女がこれだけ若くして、夢の実現へ最短であるはずの、教育の機会を絶つことになるのは、妊娠こそが直接的な原因だと感じている。そしてこの原因を取り除くためには、「避妊」することが一番なのだ。

なぜ避妊が進まないのか?

【男性視点】
・そもそも避妊具の供給が少ない/高価である(日本で言うアフターピルのように)
・宗教上の理由から避妊をしない
・子どもができても人生への影響が大きくない

【女性視点】
・男性優位の社会の中で、避妊について言及できない
・避妊の効果を知らない

上記は枝葉の理由であり、根本的な構造は、私が滞在した数日間では分からなかった。

来年から私は、中米に行き、フィリピンと同じく女性の早期妊娠が課題になっている国に長期的に滞在するつもりだ。
少しでも構造的な要因を把握し、解決に向け動いていけたらと考えている。

女の子が、どんな時も、なりたい自分になれる「人生の選択」ができるために。自分の人生のリーダーシップを、外的な環境要因ではなく、女の子自身が持てるために。途上国の女の子の避妊の促進について、現地に行くことで少しずつ少しずつ、行動したい。

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私がスラムで感じたこと。ガールズリーダーシップで最も重要なことは、「女の子が社会の中でリーダーシップを持つこと」ではない。もちろんそれも大切なのであるが、そのさらに根本の部分、「世界中の全ての女の子が、自分の人生にリーダーシップを持てるようになること」これこそが、何よりも大切なことではないだろうか。

これはスラムだけの現状ではない。

「早く結婚しなくちゃ」「子どもを生まなきゃ」「昇進したいけど、親の介護があるから厳しいだろう」そんな誰に言われたわけでもないけど蔓延っている固定観念に、日本にいる私たちですら、人生へのリーダーシップをもてていない。

世界中の女の子たちよ、人生を導いてくれるのはかっこいい王子様でない。
自分自身で、夢を見て、決断して、歩いて行こう。

自戒の念を込めて。