雪といえば何を思い浮かべるでしょうか。
私の住む地域は、雪があまり降りません。
天気雪がほとんどで、積もる雪はあまり降りません。
たまにほんの少しだけ積もるときがあります。
手すりや塀に、少しだけ積もります。
そのたびに学生時代の事を思い出します。

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当時高校生になったばかりの私は、学生生活と始めたばかりのアルバイトで家にいることが中学生の時より少なくなりました。

中学生の時は飼っていた犬とよく遊んでいたのですが、高校生になると、散歩以外関わることが少なくなりました。
日々忙しく過ごしていたので、毎日が過ぎるのが早く、季節の移り変わりを飼っていた犬との散歩で、実感していました。

犬は、全力で季節を楽しんでいました。
春は落ちている桜の花びらを、夏は虫を、秋はパリパリと音のする枯葉を。

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冬はどれだけ着込んでも寒く、散歩の時間も少なくなっていました。
犬はとりわけ冬にたまに降る雪が不思議なようで、降るたびに不思議そうな顔をしてこちらを覗き込んだり、空を見上げたりしていました。
普段の道を白く彩る雪が面白いようで、積もる雪に触れて、雪が溶けた様子を驚いた顔をするのです。

私もその驚いた顔が面白くて、手袋をつけていない手で、雪をかき集めて雪玉を作り、遠くに投げます。
すると犬は喜んで雪玉を追いかけるのですが、雪玉を取ろうとすると、雪玉は崩れて消えます。
そのたびに、犬は「どうして?」と不思議そうな顔をします。
その顔がとても愛おしく、面白かったので何度も繰り返していました。
犬は何度もこちらに戻っては、「投げて」と催促をします。
犬の気が済むまで投げたいと思うのですが、積もる雪が少ないので、すぐに周辺の綺麗な雪はなくなってしまいます。
仕方ないので、少し溶けたしゃりしゃりの雪を集めて投げますが、それもすぐなくなります。

雪玉を作れる雪がなくなったことを、言葉や身ぶりで伝えようとしても、伝わるわけもなく催促されます。
投げたフリで誤魔化せるのも数回なので帰りたがらない犬に「また雪が降ったらね」と言い聞かせ帰りました。

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その「また」を何度か繰り返したうち、「また雪が降ったらね」と言えなくなりました。
私がアルバイトをしている時に、犬は居なくなりました。
雪玉を作って投げても、不思議そうな顔をした犬は帰ってこなくなりました。

今年もかじかむ指を少し積もった雪につけること無く冬を終えることになりそうです。
そもそも、この地域では積もるほど降らないかもしれません。
もし少し雪が降り、積もったとしても、かき集めて投げる事はもう無いです。
息を白くして嬉しそうに、追いかける犬を見れそうにないからです。

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私は雪と聞くと、雪玉を追いかけて、崩れた雪玉を不思議そうな顔をする犬を思い浮かべます。
私が投げた雪玉が崩れる前に、捕まえることができなかった、そんな愛おしい犬を思い浮かべます。

きっと雲の上から雪を見ても、私の飼っていた犬は不思議そうな顔をしていると思います。