大学3年生のクリスマス。過去にも付き合っていた人はいたけれど、クリスマスに恋人と過ごした記憶はほとんどない。
あれは初めて自分からのアプローチの末に付き合った社会人の彼との最初で最後のクリスマス。付き合ってからさほど経たないうちにクリスマスがやってきた。私の気持ちは、いわば沸騰状態と言っても過言ではないくらい。大好きな彼と過ごせるクリスマスだった。
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普段は滅多に行かない百貨店に、クリスマスプレゼントを選びに行った。恋人にプレゼントを渡すなんて初めてで、事前に「社会人彼氏へのクリスマスプレゼントランキング」なんかを参考に、見慣れないメンズショップに足を踏み入れて、少し背伸びをして無難な色のマフラーを選んだ。
社会人の彼は土日祝がお休みで、その年のクリスマスは平日だった。本当は一緒にイルミネーションでも見に行きたかったけれど、平日だし、そんなわがままは言えないと、一緒に過ごせるだけで充分じゃないかと、寂しさは心の中に留めておいた。
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だからクリスマスはいつものように、彼の仕事終わりに私の部屋で。私はというと、張り切ってホールケーキ作りに挑戦。うまくできるか不安を抱えたまま久しぶりに作るケーキ。ドキドキと不安とワクワクを練り込んで。こういう時に限って、段取りが下手くそな私。段々と彼との約束の時間が迫ってきた。後は飾り付けだけ。小さめのホールケーキには多すぎるパックのイチゴ。せっかくならふんだんに使おうと、スライスしてケーキの側面に貼り付けた。デザインセンスなんてない。本当はもっと綺麗なケーキを作りたかったのに、出来上がったケーキは手作り感満載だった。
それでも何とか彼の到着前に完成して、冷蔵庫にしまった。
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そして事前に押し入れの中に用意しておいたマフラーを彼に渡した。彼からはお揃いのバングルをもらった。想像していた、期待していた、可愛らしいものとは違ったけれど、すごく嬉しかったことを覚えてる。デザインよりも金額よりも何よりも、彼がお揃いのものを選んでくれたということ、一緒に身に付けられるものをくれたことが嬉しかった(今となっては、ちょっとクールなデザインで、全く好みではないけれど)。
そして一通りご飯も食べ終えてケーキの時間。一口食べてみると、ラム酒を入れすぎてしまったみたいで、ほんのり香る程度にしたかったのにしっかりとラムを感じた。彼は正直どう思ったかわからないけれど、私は1人失敗したなぁと落ち込んだ。結局ホールケーキの4分の1ずつ食べて残りは食べきれず冷蔵庫に戻した。翌日も仕事の彼が持って帰るはずもなく、残りは翌日自分1人で寂しく平らげた。
せっかくのクリスマスに会えた嬉しさとプレゼントの余韻と別れた寂しさと1人ケーキを食べる虚しさの中、その年の私のクリスマスは終了。
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彼に別れを告げられた後、彼の私物をいくつかまだ持っていた私は、それらと一緒にバングルも返した。せめてもの抵抗だった。自分で処分することだってできたけど、なんだか悔しくて、今までのことをなかったことにするかのように。こっちだってもう会いたくない、勝手に処分してよねみたいな、強気に突き放したつもり。本当は未練たらたらだったけど、貰ってから1年も経っていないバングルは、時の流れを感じさせないほどにまだ綺麗だった。
その時は彼が大好きだったから、幸せで終わってほしくない時間だった。彼と別れた後、何度その頃に戻れたらと願っただろう。
彼と最初で最後の、幸せと寂しさと、色々な感情が混在していた、そんなクリスマスの思い出。