暗くなり雪も降りだしたテカポ湖の山の帰り道、不安の中で訪れた奇跡

私には忘れられない体験がある。それは、ニュージーランドのテカポ湖の山に登った日のことだ。
当時、私は大学の留学プログラムに参加し、ニュージーランドの大学で英語を学び、ホームステイをしていた。留学当初、私はインドア派だった為、休みの日に外に出る習慣もなく、留学中もホームステイ先の自分の部屋で勉強していた。
そんな私にホストマザーは、「せっかくニュージーランドに来たんだから色んなところにも行ったら?」と声をかけた。
今まで家と学校の往復、休みの日は家で勉強していた私は、外へ行くのが怖かった。「変な人に絡まれたらどうしよう」「車に轢かれたらどうしよう」そんな気持ちが強かった。
幸いなことに同じ日本の大学からの留学生もいて、昼食はその友達と食べていた。そして、その友達に一緒にテカポ湖に行こうと言われた。
初めは、知らない土地で外に泊まることが怖くて迷った。友達に「せっかくニュージーランドに来たのにどこも観光しないの?もったいなくない?」と言われ、渋々行くことにした。
私がテカポ湖に行く前の日に雪が降り、当日は前の日の雪が残っていたが、天気は晴天だった。実際に行ってみると、海の青さと雪が幻想的で、生まれて初めて景色に感動した。
その後、テカポ湖の山に登ることにした。しかし、雪が残った山に登ることは容易くなかった。何度も雪で滑り、手すりもない為、地面に手をつけて登る時もあれば、木などを手すりの代わりにした時もあった。また、道も整備されてなくて、前の人が残していったであろう足跡を頼りに前に進んで行った。足跡と感覚で道なき道を進み、友達3人で意見を交わして励まし合いなんとか頂上に辿り着いた。
私も友達も達成感があり、みんな頂上での景色はしっかり目に焼き付けた。その後、頂上にあるカフェで山頂からの景色を眺めながらホットチョコレートを飲み、優雅な時間を過ごした。カフェの閉店時間になり、下山することにした。
しかし、山に登る時にみんな雪で滑っていた為、来た道を戻るのは危険と判断した。標識には「歩道30分」「車道50分」と書いてあった。車道には、雪があまりなく歩きやすかった為、「50分歩いて帰ろう」とみんなの意見が一致した。
しかし、1時間経っても到着せず、ホテルの方向も分からなくなっていった。街灯もない為だんだん景色が暗くなり、雪が降って気温も低くなっていった。1人の友達が、「人や車が通りそうな場所にとりあえず行こう」と冷静に判断して、みんなを誘導してくれた。
そうこうしているうちに奇跡は訪れた。たまたま車が通りかかり、私たちの前で止まった。そして、日本語で「ここから山のふもとまではかなり時間がかかるので、ホテルまで送りましょうか?」と言われた。まさに救世主が現れたと思った。
車の中で話を聞くと、その車を運転している方は、山頂にあるカフェの日本人のオーナーさんだった。そして、私たちが入店したことも覚えてくれていた。
私は知らない土地で人の温かさにふれ、困難があっても友達と最後まで何が最善かを話し合うという良い経験ができた。もう、当時から5年以上経つが、この出来事は忘れることはないだろう。
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