チョコレート菓子のアポロみたいな、あまーいピンクのドリンク。
喉がやけるような味のそれを難なく飲み干せたのは、やはり作り手がかけた魔法のおかげかもしれない。

少し前、女友達とメイド喫茶に行ったときの話だ。
私が暮らす札幌、特に都市部の大通近辺にはたくさんのコンカフェがある。狸小路商店街を歩けばありとあらゆる看板、そしてその近くに立つ客引きの女の子たちを目撃できる。
興味はあったが行くきっかけが無かった私は、友人からの誘いに喜んで乗った。

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休日の昼間、私たちは数あるお店のなかから1店を選び入店した。
店内は想像していたより狭く、2人がけのテーブル席が4、5席、窮屈に並んでいる。繁盛しているようで、私たちが来店したことで全ての席が埋まった。
プランの説明をしに来てくれたのは、緑色のボブヘアーの女の子だった。彼女は宇宙人で、お店にいる時だけ人間の姿になれるらしい。
初来店の客限定で頼めるプランがあるとのことだったので、私たちはそれを注文した。女の子の指名と、その子の手作りドリンクとブロマイド、ツーショットチェキ撮影がセットになった60分間のプランだ。

友人は宇宙人を、私は「エゾオコジョ」だという小柄な女の子を指名した。彼女も例によって店内でのみ人間になっているらしい。

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指名してから気づいたのだが、オコジョは人気者のようだった。私たち以外は全員男性の1人客だったのだが、やたらと話しかけられている。眺めていると、人気の理由が見えてきた。

「私がちょっと休んでた間に、○○ちゃんと仲良くなってるでしょ~~。私知らなかったんだけど!」

そんな声かけを、一回り以上は年上に見える男性客相手に堂々とする。○○ちゃんというのは、恐らく店の他の女の子のことだろう。

ちなみに彼女が「ちょっと休んでた」理由は、オコジョ学校で優秀なオコジョになるための実習があったかららしい。この説明も非常に堂々と行っていた。
メイドとして求められている役割をしっかり担う。彼女の接客には、そういう誠意がにじんでいた。

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そんな彼女は、私が指名してしまったこともあり非常に忙しそうだった。
私と友人は60分のプランで入っているため、その間でセット内容のサービスを終えなければならない。他のお客に対応しつつ、私にドリンクの好みを聞いてくれた。

甘い感じで、と伝えた数分後、運ばれてきたのが冒頭で述べたものだ。ドロドロで、とびきりファンシーなピンク色。

「魔法をかけます!」

その宣言の後、オコジョはドリンクに向かって投げキスをした。
わっ!と思った。そういえば、人の投げキスをこんなに近くで見たのって、初めてかもしれない。想像していたより、ずっと大きなトキメキを感じた。

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私たちのような女性客なんてリピートする確率も低いだろうし、店全体から見れば取るに足らない存在だったと思う。
それでも誠意を尽くして、「お嬢様」として扱ってくれた。60分間のお給仕で、しっかり幸福感をもらってしまった。
彼女たちへの感謝を胸に、私と友人は笑顔で「お出かけ」した。