都会の夜空は星ひとつないけれど、見惚れる美しさを放っていた。歩き疲れていたせいでもあるが、空に真っすぐ光を放って突き抜けている高層ビルを見上げていると、なんだか強く惹かれる出会いを果たしたように思えた。

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旅行って、恋に似ていると私は感じたのだ。
昨日まで知らなかったのに、どこかで会ったことのあるような懐かしさを感じながらも、ようやく求めていた人に出逢えたような気分になる、旅行。日常が窮屈で仕方ないわけではない。でも、時たまに非日常へ旅したくなるのだ。それは衝動的であることよりも、私の場合、計画を練りに練って、ようやく羽ばたけるものである。

中学生の頃、東京と名古屋へ家族旅行をした。名古屋のガイシホールでライブに参戦してから、念願のディズニーランドへ出向いたのだ。このディズニーランド行きが、なぜ「念願」なのかというと、話は長くなる。我が家は、この旅行を決行する前の年にも東京へ旅行していて、目的地はディズニーランド一択だった。しかし東京へ向かう車内の後部座席で、仮眠をとっていた母親が、「ああっ!」と何か失態を起こしたような声を上げた。

「チケット、忘れてきたわ」

ええっ、今、何と言った? 運転していた父はそう焦っていなかったが、私は背筋が一気に凍り付きそうだった。こうして私たち一家の旅行は、計画通りにはいかない、まるで人生そのもののようだった。