2023年2月、ふと思い立って香港へ旅行へ行った。王家衛の作品に魅せられ、無性に香港に行きたい気分であった。サクッと航空券とホテルを予約し、行きたい場所をピックアップして、最低限の準備だけをして2泊3日の弾丸旅行へと、文字通り弾丸のごとく、1人身軽に飛び立った。

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出発の少し前に気づいたのだが、実は4年前にもちょうど同じ日程で香港へ渡航している。そのときは友人数人と、大学の卒業旅行という名目で訪れていた。その後、香港全土で巻き起こったデモは記憶に新しく、さらにコロナ禍の海外渡航自粛による停滞があった。

あのとき訪れた場所はどうなっているだろうか、お店は変わらずに開いているだろうか。様々な思いが過る。この4年という歳月は短いようでいて、世界に大きな変化をもたらした時間だと思う。

世界は大きく変わったが、私個人はどうだろうか。大学を卒業してからのこの4年、壁にぶつかり、他の人にとっては全く取るに足らないほどの小石につまずき、立ち上がってはちょっと焦って走ってみたり、やっぱりペースを戻して歩いてみたりした。その中でいろんなものを見て、いろんな経験をした。だが、それらが自分の糧になっているかというとわからない。私自身、自分が大きく成長したという実感はない。離陸する飛行機の窓から外を眺めて、そんなことを考えていた。

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いざ降り立った香港の空港は、旅行客がせわしなく行き交っていた。皆マスクはしているけれど、その活気はどこか懐かしく感じられた。4年ぶり2度目の渡航、日本に比べると暖かいその気温に、自然と顔がほころんでいた。

街中の往来を行き交う人々も、狭い路地に並ぶ軽食店も、ヴィクトリアハーバーの夜景も、初めて訪れたときのワクワクした私の感情もそのままに、すべて杞憂だったと安心するほどに変わっていなかった。たかが4年、やはり大きな変化をするには短すぎる歳月なのだ。

記憶の中を辿りながら、新しい発見もしながら香港の街を歩いた。ふと、何か違うと気づいたのは、黄大仙(ウォンタイシン)という香港随一のパワースポットを訪れたときだった。

黄大仙を訪れるのは今回が初めてだった。ここは「あらゆる願いが叶う場所」と言われている。私は火をつけた線香を手に、慣れた様子で参拝する人々を眺めながら、見よう見まねで礼をしたり線香を立てたりした。一通り参拝したところで、線香が余ってしまった。奥にもまだ何かあるようだと線香を手に歩く私は、突然男性から声をかけられた。

「この先には線香を立てるところはないよ。火がついてるなら戻ってどこかに立てておいで」

私は「そうなんですか。ありがとう!」と返した。彼も旅行客だろうか、親切な人だと思ったところで私はハッとした。男性も私も中国語で会話をしていた。不思議なほどするりと中国語が頭に入り、ごく自然に返事をしていた。そんな自分に驚いた。

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香港の風景は4年前と変わらない。変わったのは私の方だった。この2年ほど、趣味のために中国語を勉強していた。香港といえば広東語が主要言語ではあるが、中国語もごく普通に用いられる。

4年前は英語でしかやりとりができず不便だったものが、今では中国語という選択肢ができた。知らず知らずのうちに得ていた成長を、旅先で感じることになろうとは思いもしなかった。あらゆる願いが叶うというのは、どうやら本当なのかもしれない。