私は先日、東京旅行に出かけた。私の住む名古屋からは車で四時間程度。好きなYouTuberのポップアップに参加するためなら、どこまでも駆け付けられる勢いがあった。

そんな矢先にこの「私と東京」というタイトルでのエッセイを募集していることを知り、自分なりに東京で感じたことを文にしたいなと考えながら旅に出かけたのだった。

まず、東京についてすぐに思ったことは一人一人が自分の人生を満喫しているなという印象だった。名古屋では見かけないほどの大きさのカフェテラスで優雅に昼下がりを過ごす人たちや、とんでもない人が縦横無尽に行きかうスクランブル交差点を目の当たりにし、それぞれが自分の時間を全うしている雰囲気が感じられた。

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名古屋では、私はいつも街を歩くときに人の目を気にしてしまう。そんな自分に疲れて街を歩くことが嫌になった時期があったが、東京の人はだれもお互いを気にし合ってはいなかった。

ドラマでよく見るような素敵なお店、おしゃれなインスタ映えしそうなご飯、店頭のショーウィンドウに並ぶキラキラした流行りの衣服、とんでもない広さの地下鉄。どのシーンをくりぬいても、そこに当たり前の様にいるみんなそれぞれが、人生の主人公のように感じられた。

だけど、一歩路地裏に入り込むと急に別世界になったような寂しさ、空虚さを感じることがあった。開催されたポップアップの帰り道。場所は渋谷で、辺りにはいろいろな雑貨屋やカフェが立ち並んでいる。時間があるし、めぐってみようと意気込んだ。だけど、そこに行くまでにはなんとも寂しい路地裏を通り過ぎなければいけない。煙草をふかしながら一人歩く若者の寂しい後ろ姿。道路わきに寂しく咲く色鮮やかな花。こんなところにも人々の生活があるのかと思わされるアパート、それらの光景に、さっきまでとの表世界とのギャップに胸が締め付けられた。

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キラキラした表世界に行けばここが日本の中心を担っている東京なのだと誇りに思うと同時に、路地裏に入った時のその光と影をたまに垣間見ることがなんとも切なかった。

夜には東京タワーに行った。私が東京タワーに上ったのは中学の修学旅行以来で、約十年ぶりの再訪だった。以前の印象よりも、装飾に力を入れており、赤と金のネオンで統一された塔内、案内してくれるお姉さんの可愛い東京タワーをモチーフにしたワンピースでさえ、東京を誇りに思って海外にも宣伝しようという魂が感じられた。

展望デッキまでの四十五秒間、日本らしい和風の曲と一緒に東京タワー設立から現在までの紹介をアナウンスのお姉さんがしてくれた。そのあとに英語で同じ内容をもう一度紹介し、エレベーター内の外国人観光客は、うんうんと頷いていた。私はそのたった四十五秒間で、ぐわっと涙が込み上げてきた。

それは刺激的な一日からの疲れからなのかもしれないし、それと同時に東京という素晴らしい街を誇りに思って紹介する一生懸命なアナウンスに対してだったのかもしれない。だけどとにかく、私は日本人でよかったと心から思った。本当にそう思ったのだ。

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名古屋に帰ってきて、住み慣れた町並みを目にすると、やはり安心感があった。いつも揺られるこの地下鉄の規模感も、何もかも「そうそう、この感じ」と思って懐かしく感じた。たった一日しか離れていないのに、私はやっぱり名古屋が好きだと思った。

東京の街並みに時々寂しさを感じる瞬間があったのは、その人工的な異世界感が行き届いていない路地裏や、静けさを感じる瞬間があったからだろう。

だからといって東京を否定しているわけではなく、私は東京を訪れた外国の観光客は、大抵が日本をとてもいい国だといって帰っていく理由に納得した。一人一人が自分の人生を生きて、自分の仕事を全うする姿。拙い英語でも頑張って伝えようとする電車内のアナウンス、東京タワー内のアナウンス。せわしない毎日の中、前に向かっていこうとする一生懸命さが一人一人に感じられる東京という街がとても好きだと思った。