香港から帰って数ヶ月。オフィスのデスクに座り、無機質なPC画面と向き合う日々。仕事を終え、満員電車に揺られながらふと感じる。

「身体が、心が、香港を欲している」

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旺角の市場を埋め尽くす人の波。
飛び交う広東語、勢いよく袋に詰められる果物、熱気と活気が肌にまとわりつくあの感覚。

白んだ空の中食べに行く、熱々の魚片粥。
とろりとした白粥の中にふわりと浮かぶ魚の切り身。口に運べば、じんわり広がる優しい味。

どこからともなく漂う八角の香り。
ふいに立ち止まり、その正体を探す。

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スターフェリーに乗る私の頬をなでる潮風。
波の音を聞きながら、遠ざかる九龍半島と近づく香港島のビル群を交互に眺める。

香港公園で、聞き慣れない鳥のさえずりに耳を澄ます時間。
南国の湿った空気を吸い込み、心がほどけていく感覚。

信号が変わるたびに響くジリジリという電子音。
街のどこにいても耳に届くその音は、香港のリズムそのものだ。

そして、トラムの固い座席に身を預け、ゆっくりと進む時間。
窓から流れる景色をぼんやりと眺めながら、ふと考える——やっぱり、私は香港が好きだ。
目を閉じれば、香港はすぐそこにある。香港が私を呼んでいるのだ。

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気づけばスマホを手に取り、香港行きの航空券を検索していた。
迷いは一切ない。購入。確定。
出発は明日。金曜日の夜、21時台の便。

私はきっと、また同じことを繰り返す。
香港が足りなくなるたびに、私は香港に呼び寄せられ、こうして衝動的に飛び立つのだ。