幾多の脳内トラブル・シミュレーションを越えた先の世界は美しく輝く

私が旅に出る理由、それは生を実感するためなのかもしれない。
空港に到着し、保安検査を受ける時。私はいつもさまざまなトラブルを脳内でシミュレーションし続けている。
金属探知機が鳴り止まなかったら?お気に入りの香水に麻薬犬が反応したら?パスポートの顔写真を二度見されたら?
トラブル・シミュレーションは機内でも続く。
バードストライクが起こったら?機長のくしゃみが突然止まらなくなったら?通路側の席の人がハイジャック犯だったら?
そんな脳内トラブル・シミュレーションを乗り越えて旅先に到着した時、追い求めた楽園に辿り着いたような心持ちになる。
脳内での多種多様なトラブル300連発という極度の緊張状態から解放され、世界はより美しく見えてくるのだ。
空港から一歩外へ出て、バンコクの外気の暑さを感じた時の喜びは忘れられない。あの少し煙たく埃っぽい空気を吸い込むことに喜びを感じられるのは、まさに生を実感しているからだ。
熱い風に肌を撫でられ、異国の言葉が飛び交う喧騒を感じ、ざらりとした地面を踏みしめると、体の重心がどこにあるのかよくわかる。
普段は気にも留めないことをひとつずつ感じながら過ごす時間の鮮烈さは、帰路にも待ち受けているであろうトラブル・シミュレーションのことを忘れさせてくれる魅力があるのだ。
かがみよかがみは「私は変わらない、社会を変える」をコンセプトにしたエッセイ投稿メディアです。
「私」が持つ違和感を持ち寄り、社会を変えるムーブメントをつくっていくことが目標です。
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