苦労して辿り着いた山頂で食べた梅干しおにぎりは人生一番の味だった

今よりずっと幼い頃の経験で、詳細はあまり覚えていないけど、それでも私の記憶の中では、後にも先にもあの時ほど美味しいと感じた梅干しおにぎりは食べたことがないと思う。
小学生から入っていたボーイスカウト。きっかけは兄が入っていたから。ガールスカウトという存在もあるということは、後になって知った。ボーイというだけあって、男子しか入れな いものと思っていたけれど、実際は女子も入れるらしい。
それでも、メンバーの大半を男子が占めていて、女子は少数派だった。はじめはそれなりに楽しんで活動していたけれど、私と同じ学年の子がいなかったこともあり、上級生の女子達が卒業すると同時に、行くのが億劫になり疎遠になっていった。そして、中学1年生か2年生になると、部活動にも力を入れていたこともあり辞めてしまった。
ボーイスカウトでは、キャンプや山登り、ボランティアなど様々な活動をしていた。 そんな活動の中で、一番過酷だった山登りの日の話。
前日は、車で山の近くの湖畔まで行き、皆でキャンプをした。キャンプといっても、家族や友人と行くような楽しいキャンプではなくて、今まで学んできた、テントの張り方、料理、 ロープの結び方を試されるような場、チームワークや役割分担を確かめられる場でもあるため、気を緩められるような雰囲気ではあまり無かった。それでも、終わってみると楽しかった思い出にはなるのだけど。
そして、翌日早朝、これから始まる山登りに備えて、皆でおにぎりを作った。各々が持ち寄ったお米を、飯盒で炊き、具は梅干しだけというシンプルなもので、最後に軽く塩をふり、 海苔で巻いた。そして、たくあんも数切れ添えて、確かひとり2つくらいをリュックに仕舞った。
準備が終わると、さあ、山登りの始まり。その時以来、私は本格的な山登りはしていないか ら、実質あれが人生で最後の一番しんどい山登りだった。
決してなだらかではない斜面を登り続け、山頂を目指した。雨こそ降っていないものの、晴れ間はなく、なんとなく億劫な気分だった。その時はまだ、スマートフォンがない時代。紙の地図とコンパスを手に、皆で頑張れ頑張れと足を進めた。
途中大きな岩を登る場面や、ほぼ垂直にも思える斜面を、体にロープを巻き付けて登るような場面もあった。辛い、怖い、帰りたい。そんな言葉をかき消すように、必死に前について行く。
そしてやっと辿り着いた山頂。本来であれば、絶景が広がっているのだろうけど、その日はあいにくの曇りだった。目下は一面の雲に覆われていて、かろうじて高い場所にいるとはわかるものの、景色という景色は見えなかった。
そんな状況に少しがっかりしつつも、やっと登り切ったという達成感が勝っていた。運動が得意ではない私。それでも、忍耐力はあるんだと、誰に言うわけでもないけれど、誇らしさが自分の中で湧き上がってくるのを感じた。
そして山頂で、皆で地面に座り込み、雲を眺めながら、リュックに忍ばせておいたおにぎりを開ける。お昼休憩だ。
数時間かけて登った山頂で手に取るおにぎりは、もうすっかり冷めていて、すこし硬さを感じた。
それでも疲れてお腹も空いている私には十分だった。
特別大好きというわけでもない梅干しの入ったおにぎり。冷たくて、硬くなったおにぎり。
口入れた途端、心から美味しいと感じたのを、十何年経った今でも覚えている。
梅干しよりも好きな具もあるけれど。おにぎりじゃなくても、もっと高級で良いものを使っているものも沢山溢れているけれど。職人さんの技が入った料理もあるけれど。
あの時食べた、シンプルなおにぎりが人生で一番美味しかったのだ。
それはきっと、単に味が良いとか悪いとかで片付けられる話ではなくて、どれだけシンプルなもの、ありふれたものでも、苦労して、自分たちで用意して、頑張った先に、空腹の先にあったからだと思う。
私たちは人生で何度、このような経験ができるだろう。
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