私の相棒は、水色のキャリーバッグだ。短期留学に行くとき両親に買ってもらった。蛍光に近い水色は、荷物レーンでよく目立つので見つけやすい。

アイスランドに行く前夜、私は相棒に荷物を詰めてチャックを締めた。荷物はまだあるが、すでに重い彼を立てて、取っ手を引き出してみる。そのまま何をするでもなくぼーっと眺めていた。不安で眠れなかったのだ。何せ初めて一人で海外に行くのだから。

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よく見ると、彼には細かい傷がいくつもついていた。大切に使っていたつもりだけど、引いている間にぶつけたり、貨物室で他の荷物にぶつかったりしているのかもしれない。
私は彼の傷をなぞった。階段に擦ってついた跡、剥がし損ねたバーコードシールの残骸、ぶつけてできたへこみ。傷は彼が私と旅をしてきた証で、今までの旅の記録でもある。
そう思うと、不思議と安心感が浮かんできた。これまでもいくつも旅をしてきた。不安なことも乗り越えてきた。だから、大丈夫。きっと、楽しい旅になる。

彼は堂々とした立ち姿だ。自信が漲っているように見える。いつもありがとう。明日もよろしく。これまでの感謝と明日への思いを込めながら私は彼を撫でた。

「どこへでも、お供しますよ」。そんな声が聞こえた気がした。