私は人への関心が高く、初対面の方と会話をすることに抵抗がない。むしろ好きだ。

仕事の同僚、クライアント、ビジネスパートナーだけでなく、お年寄り、こどもとも趣味の場などで話すことがある。結婚願望のある未婚者なので、男女の出会いの場にも積極的に出かけ、様々な職業の人とも出会ってきた。

色メガネについて考えた時、老若男女に分け隔てなく話せる私は色メガネなんてかけていないと思った。
しかし、内省を進めるうちに、初対面での印象ではなく、長く付き合っている身近な人たちにかけていることに気が付いた。

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数年前に、会社に同年代の中途採用の女性が入ってきた。彼女は容姿端麗で、流行りのファッションに身を包んだ、はきはきと元気な女性だ。仕事もきっちりとこなしていた。
初対面の方に話しかけずにはいられない私は、すぐに挨拶をし、猫が好きなことや新しい土地での不安、これまでの経歴などを話し、明るく話しやすく好印象をいだいた。

数ヶ月経ち、あるプロジェクトを一緒にすることになった。打合せで業務内容を検討していると、「そんなことまで私がするの」「1日中外出するのは、日焼けするから嫌だ」と張りのある声で言い放った。
私はその時から彼女に色メガネをかけた。
-見た目がよく、周りから優遇されて辛いことは避け、やりたいことだけやってきた人-
プロジェクトを進めたが、彼女を乗り気にさせるのは難しく、できそうな仕事を作った上で渡すことにした。プロジェクトが終わる頃、私の色メガネは濃くなっていた。

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その後、1年ほど経ち、また彼女と仕事をする機会があった。私の色メガネは濃い色のままで、仕事の打合せがたいそう憂鬱だった。
しかし、またネガティブな発言をされるのではないかという心配は杞憂に終わった。積極的な発言があるわけではないにせよ、自分にできることを考えて発言するようになっていた。
そのような彼女のサポート姿勢もあり、プロジェクトは成功を収めた。

彼女は変わったのである。
色メガネをかけていると、「彼女はああいう人だから、プロジェクトをうまくいかせるのは苦労する」と思い込んでしまうが、人も状況も変わるため、以前うまくいかなかったことでも時が経てばうまくいくこともある。
誰とでも話せて柔軟だと思っていた私自身が、実は自分でかけた色メガネに囚われていた。そして、色メガネをかけることによって、自分と相手に境界をつくり、関係性にも取り組みにも限界を設けていたことに気が付き、もったいないことだと心底思った。

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自分が色メガネをかけていた時の気付きもあれば、反対に色メガネをかけられていると感じることもある。
私は、明るい、暗い、おしゃべり、おとなしい、にぎやか、落ち着いているなど、相反する印象をいろいろな方に持たれてきた。どれも私の特性だと思うし、人との関係性によっても変わる。

人間は多面性がある生きものである。相手や状況によっても、行動は変わってくる。
自分の思いと全くかけ離れていることを、「あなたは、このように考え、このように動くだろう」と決めつけられたこと、人づてに言われたことは何度もあり、毎回納得がいかない思いをした。
人の考えていることは分からない。勝手にかけた色メガネで判断をするのは、失礼なことだと、自分がされて強く思った。

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一方、私の性格や特性、感じていることを知ろうとしてくれることは、嬉しい。
「あなたの振る舞いから配慮を感じた」と言われると、細かなところまで見てくれていたことに心が温まる。

人も状況も変わるし、人の考えていることなんてわからない。
色メガネは外して、人への観察眼を持つ透明のメガネをかけ、思いやりを持って人に接していきたい。