男性がハイヒールを履いてはいけない?同僚に気づかされた私の偏見

新年度が始まり、私の職場にも新たな仲間が加わった。新卒の若い男性社員で、名前は田中さん。端正な顔立ちで、少し緊張しながらも真面目そうな雰囲気を醸し出していた。スーツ姿もきちんとしており、第一印象は「しっかりした人だな」というものだった。
しかし、私は次の瞬間、戸惑いを隠せなかった。彼の足元を見ると、そこには黒のハイヒールがあったのだ。男性社員がハイヒールを履いているという光景に、私は内心動揺した。「なぜ?」「何かの間違い?」という疑問が頭をよぎり、同時に「もしかして何か事情があるのかもしれない」という思いも浮かんだ。
ただ、その日は仕事に集中しなければならず、私はそのことについて深く考えずに過ごした。ところが、休憩時間に他の同僚と話していると、やはり誰もが彼のハイヒールについて違和感を覚えているようだった。「なんでハイヒールなんだろうね」「個性的すぎない?」という声が飛び交い、私自身も同じような気持ちを抱いていたことを自覚した。
その日の帰り道、私はふと自分の気持ちに違和感を覚えた。なぜ私は彼がハイヒールを履いていることに動揺したのだろうか。服装がきちんとしているのに、ハイヒールだけが気になったのは、私の中に「男性はハイヒールを履かないものだ」という固定観念があるからではないか。そう気づいた瞬間、私は自分自身が作り上げていた色メガネの存在にハッとした。
次の日から私は意識的に田中さんの仕事ぶりを見るようにした。彼は非常に真面目で、分からないことがあればすぐに質問し、メモを取る姿勢も熱心だった。また、言葉遣いも丁寧で、周囲に対して気配りを忘れない様子に、私は徐々に彼への見方を変えていった。そうしているうちに、ハイヒールのことは次第に気にならなくなった。彼はただ「仕事ができる同僚」になっていったのだ。
ある日のランチタイム、思い切って私は田中さんに「どうしてハイヒールを履いているの?」と聞いてみた。彼は少し驚きながらも、「単純にハイヒールが好きなんです。履いていると背筋が伸びる気がして」と笑顔で答えてくれた。その表情がとても自然で、自分らしさを大切にしていることが伝わってきた。
それを聞いた私は、胸の中にあった曇りがすっと晴れるような感覚を覚えた。「男性がハイヒールを履いてはいけない」という私の先入観は、私自身が作り上げたものでしかなかったのだと痛感した瞬間だった。
色メガネを外してみると、そこにはただ一人の誠実な同僚がいるだけだった。私はようやく、見た目ではなくその人の本質を見ることの大切さを実感した。そして同時に、これまで自分自身がどれだけ無意識のうちに人を色メガネで見ていたかを深く反省した。
今では彼がハイヒールを履いていることはすっかり当たり前のことになった。そして私は、人を見るときに無意識にかけている「色メガネ」に気づくことの大切さを、心に深く刻んだのだった。
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