わたしの好きなもの、玩具菓子セボンスターとグレーのスウェット

スーパーのお菓子コーナーに行くと、つい手に取ってしまうものがある。セボンスターだ。
カバヤ食品株式会社が出しているいわゆるおまけ付きお菓子。
キラキラピカピカしていて、モチーフが花に蝶にとこれぞ「お姫様」のアクセサリー。おまけのチョコレートを口に咥えて、自分の手元にやってきた一品を眺める瞬間はたまらない。
ささくれだった指先でつまんでも、生え際に白髪が出てきたボサボサの髪でも、光り輝く「宝石」を見ているだけで心が穏やかになる。わたしの中の「女の子」が満たされる。
それを埃の被った、スープに箸の刺さった片手鍋が置かれた白いテーブルにぽんと置く瞬間も嫌いじゃない。

もう1つ好きなものがある。グレーのスウェットだ。ユニクロのメンズコーナーで「多分Mサイズで大丈夫なはず」と手に取った、いつの間にか毛玉ができる部屋着。
楽で暖かく、上をTシャツにしてしまえば、6月くらいまで使えるし、下を黒いパンツにすればちょっと近所に出かけるくらいなら問題ない格好になれるスーパーウェア。

「少年」の闘志を胸に、マリメッコのシーツで眠る自分は嫌いじゃない

友だちからもらった、ちょっといい入浴剤を溶かした湯船に浸かり、少年漫画を読む。仲間と一緒に戦って、殴り殴られ、斬り斬られ、血みどろになって傷ついて、包帯を巻いて、絶望から立ち上がる登場人物たち。その姿を持ち込んだスマホの画面をスワイプして読み終え、火照る湯上がりの身体を包むのには、グレーのスウェットは完璧だ。
わたしの中の「少年」の闘志が蘇る。それを着てマリメッコの花咲くシーツに包まれて眠りにつく自分は嫌いじゃない。

34歳のわたしは、ハイヒールもフレアスカートも好きだ。春にはラベンダー色のワンピースも、花柄のワンピースも着たい。アイライナーも引いて、ブラウンのマスカラをまつげにのせて、マスクもイエベに合う色で揃える。爪だってきれいに整えたい。
でも、アディダスのランニングシューズはもっと好き。何より足が軽いし、昔ヒールを履いてしくじったみたいに、足首をねじり折る心配がない。

その瞬間に好きなものを選び、自分の心地よさを最優先にして生きる

短い髪も好き。うしろあたまを刈り上げると髪を乾かすのは楽だし、首がすっと長くて姿勢が良くなる気がする。なんと言っても触り心地が最高。野球少年のよう。だぼついたトレーナーの皺で胸を隠して、裏起毛のパンツを履いて、白いマスクで真夜中に行くコンビニはスリルがある。

会社で甲斐甲斐しく上司・同僚・後輩のお世話をして、居酒屋で「もう少し痩せたら」「いい人はいないの」「結婚はどうするの」「子どもは産んだほうがいいよ」と酔っぱらいの言葉を受けても、向かい合ったテーブルの下でパンツスーツだしとしれっと大股開いてハイボールを飲みながらそれを聞き流す自分も好きだ。

人として、きちんとその瞬間瞬間に好きなものを選んで、自分の心地よさを最優先にしてわたしは生きる。
今日もわたしは毛玉のついたスウェットを着て、セボンスターを眺める。