赤いスポーツカーに乗っている男は、ナルシストだと思っていた。ましてやSNSのアイコンをその車の写真にするなど、もってのほか。

だから彼とSNSを交換した時、動揺した。

彼の第一印象はとても良かった。清潔感があって、笑顔が素敵な人だと思った。共通の趣味もあり、彼と話している時間は楽しくて、会う度に惹かれていった。彼と付き合いたいと思うようになった。

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だが彼とSNSで繋がったその日、その時、気持ちが揺らいだ。ずっとずっと、赤いスポーツカーの男だけはないと豪語していた。その私が恋した相手のアイコンが、まさに赤いスポーツカーだった。私は考えた。さて、どうしたものか、と。

それから一年半が経った今、その彼と同棲している。人生わからないものだ。

彼は今でもスポーツカーを愛してやまないが、決してナルシストではない。そう、SNSを交換したあの日、一瞬のうちにいろいろ考えた。

それまで見てきた彼は、私の抱いていた赤いスポーツカーの男のイメージとはかけ離れていた。それまで見てきた自分の目を、自分が感じた彼を信じようと決めた。色メガネをはずした結果、結婚したいと思えるほど好きな人に出会えた。

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逆に色メガネが外れなかった経験もある。
自分の学力よりも下の高校を受験した私は、成績トップで入学した。入学式で新入生代表挨拶をした。その結果、高校三年間「優等生」のレッテルを貼られて過ごすこととなった。

実際の私はおっちょこちょいで、家族や友達からは突っ込まれてばかりの人間だった。周りからの評価と本当の自分とのギャップに苦しんだ三年間だった。

高校で仲良くなった友達は、どれだけ仲良くなってもどこか優等生扱いだった。スカートを短くした時に「優等生なのに駄目でしょ」と言われたのは、深く傷ついた。

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そんな私だが、色メガネをかけて見ることは、必ずしも悪いことではないと思う。状況にもよるが、私は色メガネをかけて見られることが嫌じゃなかったりする。

その最たる例は、お酒だ。初対面で「おとなしい」「静か」という印象を持たれやすい私だが、実はお酒が大好き。友達からは酒ヤクザと呼ばれるほどだ。だからお酒の場になると、「意外とお酒強いんだね」「お酒好きなんだね」と言われることは多い。

私はこれを、色メガネをかけて見られていたことに怒ったりしない。むしろ、ギャップが生まれて親しくなれることが嬉しい。ギャップや意外性を発見されたりするのは、嫌なことではない。

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人を見かけで判断してはいけないとよく言うが、少し違うと思う。最初は見かけから入ることが多いし、そんな時見かけで判断するしかないからだ。
大事なのは見かけで判断した後、その判断を変える柔軟性だと思う。色メガネをかけて見てしまうことはある。その後で外して、改めてその人自身と向き合いたいし、私のこともそうやって見てほしい。