おめでとうの代わりに「いいね」。好きだった気持ちにお別れを

朝、ブルーライトの明かりで無理やり目を覚ますのが私の日課になっていた。毎日起きると適当にインスタをスクロールして他人の日常を見る。いつも通りの私の日常。
眠い目を擦りながらスマホをつけ、流れ作業のようにインスタを開いた。パッと出てきたのは婚姻届と婚約指輪の投稿。また誰かが結婚した。
最近結婚ブームなのかというほど、友達が次々と結婚していく。別に焦っている訳ではない。次は誰か、と名前を見ると懐かしい元彼の名前が記されていた。2枚目の写真には幸せそうに笑う彼と知らない女の子。鈍器のような物で頭を殴られたようなそんな不思議な感覚にあった。
別に未練なんかはちっともない。私と彼が離れたのは学生の頃で数年前だし、もう連絡も取り合ってない。彼が今どんな生活をしているのかも分からない。そもそも幸せな記憶もあまり覚えていない。
同じクラスだった私達はお互い常に嫉妬していて、喧嘩が絶えなかった。
「あの子とあんまり話さないでよ」「お前も男といっぱい話してるやん」
そんなしょうもない言い合いが常でまだ子供だったんだと思う。でも誕生日や記念日は凄く大切にしてくれた。プリクラ機の中でユニバのチケットを渡されたり、学校の帰りに店内が360度回る豪華なレストランに連れて行ってもらった事もある。研修旅行では、私も行ってるのにホテルでお土産を渡してくれた。可愛い便箋に何枚にも渡る手紙を書いてくれて、「好き」を惜しげなく伝えてくれる人だった。
それでも互いの想いは離れていって、別れを選択した。卒業して社会人になって、私も彼も恋人が出来た。
ただ彼は伝えてくれた。
「出来るならやり直したい。やっぱり誰と付き合っても忘れられないし隣にいてほしい」
結局数年経っても私は彼の元には戻らなかった。
別れてから一度だけ2人で会ったことがある。彼が引っ越してしまって、帰省すると言うのでお互いに会おうかとなった。カフェで数時間。ただ話すだけの時間。あの頃の懐かしい記憶が蘇った。なんでも笑いに変えてくれて、優しい目で愛おしそうに見てくる。ああ、私本当にあの時好きだったんだな。改めてそう思った。
珈琲を飲みながら彼がふと呟いた。
「楽しいなあ。あー、戻りたい」
私は聞こえないふりをした。
「女は上書き保存」そんな言葉を聞いた事がある。女は前の恋なんて忘れる。でも絶対そんな事はない。ずっと覚えているし大切な思い出だ。この先素敵な人に出逢って、恋をして、その人と結婚するかもしれない。それでも私は忘れはしない。彼のおかげで成長した部分もあるし、大切な事も沢山教えてもらった。
でも、これは未練ではないと思う。あのインスタの投稿。私は心からおめでとうと思った。カフェで話した数時間、あの時引き止めなかった事は後悔していない。だって今お互い素敵な道を歩めているから。
好きだった。でももうこの気持ちはお別れできる。
私はおめでとうの代わりにいいねを押して、仕事へ行く準備をする。
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