もう20年近く前、20代半ばの頃、年に何度か香港へ出張していた。大抵5人ほどのメンバーで、毎朝天后駅そばのホテルを出て、広大な香港会議展覧中心のブースを巡り、夕方は取引先で打ち合わせして会食、ホテルの相部屋に戻り仕事のメールを返し、明け方近くにベッドに倒れこむ毎日だった。

朝、寝不足のまま天后駅に向かうと、ホテル横の急な階段を制服姿の中学生くらいの子たちが元気に駆け上がっていく。朝日を浴びて輝く彼女たちを視界の端で捉えながら、坂の上にはどんな風景があるのだろうと思っていた。地下鉄かタクシー移動ばかりの私は、いつか今見ている以外の香港を見たいと薄ぼんやり思っていた。

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会社を辞めた時、真っ先に香港を旅した。取引先の窓口だったトム君は彼女と二人であちこち案内してくれた。彼は私と同じ年齢で、もち肌輝く心優しい香港人だ。8回目の香港でようやく香港を見ることができた気がした。

今の職場で仲良くなった同僚2人と年末にどこか行こうという話になり、迷わず香港にしようと誘った。次の香港は龍背へハイキングと決めていた。パパになったトム君が案内を買って出てくれた。ハイキング前に地元の食堂で朝食を食べ、マカロニスープをしみじみと味わった。トレイルは正に龍の背のようで、緑美しい島々と穏やかに光る海景を楽しんだ。

山を下りると小さな村があり、その先に大浪湾のビーチが広がっていた。様々な言葉を話す人たちが思い思いに休日を楽しんでいた。

多分昔からそうだったのだ。香港は毎回新しい顔を見せてくれていた。ただ私がそれを感じられていなかっただけなのだ。