防災用品に数万払った私を見て彼が引いた。そんな彼を見て私は引いた

防災関連で私と夫との決定的な違いを体験した。夫婦の方向性の違い、これは本当に初めての経験であった。
備蓄や防災用品に数万円払った私を見た彼が引いていた。そんな彼を見て私は引いた。
意見が割れることもある私たちだが、大抵のことは話し合いをしてお互いの意見の間をとったり、2人で正しいと判断した方法をとったりしている。
だけどこの件に関しては話し合いの余地もなく、平行線だった。
私の主張は、何かあった時に絶対後悔する。家にモノが増えることなんて擦り傷未満だ。
彼の主張は、自治体が何とかしてくれるはずだ。家にモノが増えることが嫌だ。
お互い、上記以外の主張がない。絶対に分かり合えない一線を発見した。
私がせかせかと必要な避難用品をリストアップして買い集めようとしている時、彼は、お気に入りのYouTuberを見て笑いながらの「そこまでしなくてもいいと思うけどなあ……」というそぶりだった。それでも「自分が、もし、いざその場面に遭ったとき、学生時代当時の時給で換算しても買った方が確実にいい」という自信があったし、私の方が絶対正しいと思ったので、押し切ってポチった。
そして、1人でダンボールを解体し、中身を整理し、スーツケースに詰めた。
どんな些細なことも2人で協力する私たちだけど、この件に関しては私だけで完結させた。
正直、彼の主張も理解できなくもない。
千葉県の大きい病院の近くに実家がある。そして、坂の上の方に住んでいる。
つまり、インフラはすぐ復旧したし、浸水などの心配も無用で生活してきたようだ。
あの震災以外でも、大雨の時や台風の時など、停電してもすぐに元通りなので日常生活で突発的な苦労はそこまでしたことがないようだった。
一方の私。母親が宮城の人間なので祖父母の家に行くこともあり、その時に幾度か震度5の地震を経験したことがある。
親戚はみんな地震慣れしており、子供たちはすぐにテーブルの下に潜り、大人たちは窓から離れつつ倒れたら危ないものをそれぞれ押さえに行っていた。食器棚やTV、本棚、当時大切にしていた熱帯魚などを言葉も交わさず一瞬で押さえに行っていた。
子供と大人の間にいたお姉ちゃんはドアを開けに行っていた。
初期微動に反応し少し待ち、大きく揺れ始めると同時に何も言葉を交わさずそれぞれの動きをしていた。
いつもは中身のない会話やボケばかりしているのに、地震になった瞬間にリラックスした雰囲気を保ちつつ人が変わるような緊張感のある動きを見てきて、地震というものは、そして災害というものはそれくらい重要なものだと解釈していた。
あの震災の日、私は横浜市で中学生をしていた。最寄り駅のホームで揺れを感じた。揺れていた時の記憶は正直ない。ただ、大きくてタトゥーのある黒人男性が涙していたのを見て、これはすごいことが起きたのかもしれない、日本はやばい国なのかもしれないと思ったことは覚えている。
そのまま自宅に帰り、妹より早く帰ってきた私は母親の指示でとりあえず小学生の妹2人を迎えに行った。
母親が車で待ち構えており、妹とランドセルごと最寄りのガソリンスタンドで満タンにし、スーパーでレトルトとお惣菜を買いまくった。
その頃はまだガソリンスタンドでもスーパーでも”すごい揺れでしたね”くらいの世間話ができる程度だった。
その数時間後にはあの悪夢のような状況になった。
成長期の娘3人のお腹を満たせるくらいの食事は買えたものの問題は電気。
大きな病院のあるエリアではない私の家は、同じクラスの中でも1番電気の復旧が遅かった。
電話も通じない、充電もできない、テレビもつかない、そんな中で急な揺れも起こる。
しかも花粉症の時期ということもあり、母親が唯一買い漏れていたティッシュがなくなってしまった。
私はそんなにストレスに思っていたり、暗闇でパニックを起こすとかはなかったが、今思うとかなりストレスを抱えていたのだと思う。HSPっぽいし。
私も夫も本当にケチな方なのでお金でぶつかったことはない。
価値観も似たり寄ったりだし、食の好みも合ってきた。
だけど、防災意識が根底に違うようだ。
自分で自衛したい、自分でできる限りのことをしたい、国家の支援は別の方に回してほしい、というのが私の考え。夫はどうなんだろう。まだ聞けていない。
みんながみんな防災意識があるわけではないのかもしれない、国家からの支援の受け方は違うのかもしれないと思った。
逆に、「そこまでしなくても……」という方の考えも知ってみたいと思った。
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