逃げることも強さ。わいせつ行為を受けた職場を去り、生きるこれから

2年前のあの日。会社の先輩からわいせつ行為を受けた。
非常にショッキングで、どうしていいか分からなかった。セクハラなんてかわいい言葉ではとても言い表せない。家に帰った後、たくさん泣いた。相手は上司から信頼が厚く、人事評価はSだ。社内では、男性が女性に手を出した場合、上司がもみ消すケースも聞いていた。終わった。もう苦しみから逃れられないと思った。
そのほかにも、女性にとって理不尽だらけの会社だった。入社した際、男性社員は女性の新入社員の顔に点数をつけていた。男性上司の容姿の好みによって女性社員の配属が決まった。毎年の忘年会では、若い女性社員は男性管理職のお酌を強要させられた。バレンタインのチョコも強要された。「俺とやらせてくれれば、気持ちよくさせてやる」などの発言を受けた同期もいた。
私は新卒でその会社に入った。女性が働きやすい会社と聞いていた。プライムの大手企業で、たしかに産休・育休・時短・テレワーク、勤務時間中の中抜け制度などは一通りそろっていたが、コンプライアンス方面はてんでダメだったようだ。製造業だったので女性が少ない会社で、優しくはしていただいたが、所詮は男性が作ったレールの上を歩かされている感覚が強かった。
「女性は家事・育児があって大変だよね。家事・育児と仕事を両立できるように制度は整えたよ。でも、男性社員の性的欲求は抑えられなさそう。うち、事なかれ主義だし。ごめんね!」
そんな声が聞こえてくるようだった。
性別に限らず、カテゴリーが同じような人が集まると、人はそのカテゴリーにとってバイアスのかかった、有利なシステムを作り出す。まさにそれを具現化したような企業だった。わいせつ行為は、男性の管理職の指揮のもと、もみ消されていたものもあるようだった。
この理不尽と、戦おうと思った。私は間違ったことを言ってないし、最後は正義が勝つはず。社内でもみ消すなら、社外の相談窓口とか、労働基準監督署に駆け込むとかして、社外を巻き込めばいい。法律も味方してくれるはずだ。そう思っていた。
でも、やはり無理だった。勇気が出なかった。私のされたことが社内で広まって、そういう目で男性社員から見られたら?変な噂を広められたら?とてもじゃないが、耐えられない。その企業から離れるという選択肢をとった。
私は立ち向かえなかった。私のように立ち向かえなかった女性は多いだろう。でも、日本で立ち向かった、女性に勇気を与えた方々をたくさん知っている。伊藤詩織さん、安田菜津紀さん、最近であれば元フジテレビアナウンサーの渡邊渚さんや青木歌音さん。彼女たちの勇気は、いかほどのものだったのだろう。私の、社内で告発するかどうかのレベルではない。彼女たちは、ジェンダーギャップ118位の日本に対して、社会に対して自身の被害を公表し、数々の目にさらされるリスクも負いながら悪と立ち向かった。その恐怖は、そして勇気は、とてもじゃないが私の言葉では言い表せない。彼女たちには類まれのない強さを感じる。自分だけの復讐ではなく、世の中を浄化し、正しい方向に導くための、まっすぐできれいな何にも負けない強さを感じるのだ。
そして、彼女たちほどではないが、私だって強い。私はことが起こってから、求人票を読み込み、転職市場で求められているスキル・経験を確認し、仕事に打ち込み、コンプライアンス意識が高い、有名な大企業に転職した。私は戦えなかったが、逃げるための術を身に着け、自分が輝ける場所を追い求めた。それだって、強さだと言えるし、私は私を誇りに思っている。私の強さを大事にしながら、私はこれからも生きていく。
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