今年の4月、人生で初めて昇進した。
本部から届いた新しい名刺には、名前の前にいただいたばかりの役職名が誇らしげに載っていた。
人と関わることが好きな私に合う仕事。だけど職場の人間関係は最悪
私は今の職場に勤めて約3年半が経つ。
現在私が勤める職場は金融業界で、営業事務や経理、人事関係から雑務まで幅広く担当する業務を行っている。毎日様々な業務に追われて1日があっという間に過ぎていくけど、3年以上経った今ではそんな1日にも慣れつつある。
ちなみに現在の職場に勤める前は、新卒で入社した金融機関で窓口担当として約3年半働いていた。
窓口に立って「こんにちは」と、笑顔で元気よく声をかけ、来店されるお客様に金融商品を提案したり、老後資金などの相談に乗ったりする毎日。時にはお客様のお孫さんの話や旦那さんの愚痴を聞いたり、差し入れに野菜やお菓子をいただいたりもした。
お客様の命の次に大切なお金を預かりながら、その方の人生に寄り添い、手助けをすることができるこの仕事が、人と関わることが好きな私はとても大好きだった。
入社当時は「私はずっとここで働くんだろうなぁ」なんて、ぼんやり思っていたこともあったくらいだった。
だけど、職場内の人間関係はその真逆で大嫌いだった。私は入社早々、職場のお局様を筆頭に、他の女性社員達から嫌がらせの洗礼を受けた。
お局様が機嫌の悪い時に話しかければ、無視されるのは当たり前。
振込のミスや、記入漏れ……。お局様は自分のミスを何度、新入社員だった私のせいにしていただろうか。
髪も明るさに社内規定があり染めることはできるのだけど、染めたとしてもすぐに戻せと女性社員達から言われるのが目に見えていた。だから髪を染めようとさえ思えず、私はずっと黒髪だった。
お局の異動で減った私への嫌がらせは、同じ職場に来た妹へ
せっかく就活を頑張って新卒で入社した会社だし、お客様と会話するのも楽しくて大好きだし、社内に憧れている先輩もいるのにまだ全然近付けていない……。あんな人達のせいで辞めてたまるか、好きな仕事を諦めてたまるか!!!
私は誰かのせいで辞める選択をしなければならない事が悔しくて、無視をされても、ミスを擦り付けられても、何度も「辞めるもんか」と歯を食いしばって耐えた。
そして、しばらくすると、そのお局様は異動になった。それを皮切りに私への嫌がらせも少しずつ無くなっていった。
その数年後、仕事も大抵のことはこなせるようになり、ようやく仕事が本当に楽しいと思えるようになってきた頃。
私の妹が私の働く姿を見て同じ場所で働きたいと、同じ職場に入社した。しかし、妹の配属先には、私が新入社員時代にいじめられていたあのお局様がいたのだった。
入社後しばらくして、妹もかつての私のようにお局様達から1人だけ夜遅くまで残業させられたり、金庫に閉じ込められたり、たくさんの嫌がらせやパワハラを受けていたことを知った。
入社したばかりの頃は「お客様と会話するのすごく楽しい」と、楽しそうに話していた妹の笑顔や、仕事へのやりがいを妹の職場の上司たちはどんどん奪っていった。
妹は次第に無表情や過呼吸が増えて会社に行くことが出来なくなり、適応障害を患ってしまった。
私は直属の上司や総務に相談したが、彼らは話を聞いてくれるだけで何も動いてはくれなかった。記録を残したり、証拠も集めて提示したりしたのにも関わらず。何度も何度も掛け合っても、行動に移してくれることは決して無かった。そして、パワハラの事実さえも認められなかった。
目に入ったのは「女性」が少ない職場。思い切って履歴書を送った
何度も掛け合いを繰り返す中、行動してくれない会社に対して呆れ、どうでもよくなってしまった。
この会社にいるお局様達のせいで妹が適応障害になってしまったことは変わりないし、パワハラがあったのに周囲は見て見ぬふりをし続けた。
このせいで私たちの仕事を諦めなきゃいけないことは本当に悔しい。でも、もうここは私がずっと働きたいと思える場所じゃない。ここに居続けると私たちの心が死んでしまう。あんなに尊敬していた上司たちの姿は、どうやら私の幻想だったのかもしれない。
妹の退職後、私もそこを退職した。
その後は、ハローワークや求人情報誌で職探しをする毎日。前職での経験を活かせたらと思い、金融関係のカテゴリーで検索していると、とある企業の募集要項が目に入った。
「“就労人数:女性社員1人、男性社員7人”かぁ、もし入社したら女性2人ってことか……」
前職場で女性社員達からのパワハラにトラウマがあった私は、女性が1人いるくらいの職場が丁度いいかもしれないと思い、思い切ってその企業に履歴書を送った。
数日後、すぐにその企業の採用担当者から連絡が入り、本社である東京で面接を行うこととなった。地方在住である私は面接当日、どきどきしながら飛行機へと乗り込み、東京へと向かった。
羽田空港到着後、その企業を目指して電車に乗り込む。
初めて降りる駅、ちゃんと時間通りに場所に辿り着けるだろうか……。
中途採用だから、前職を辞めた理由聞かれるだろうな、きちんと話せるだろうか……。
目的地に辿り着くまで、不安や緊張で当時のことはあまり覚えていない。
だけど、ちゃんと目的地には辿り着けたし、面接でもきちんと前職を辞めた理由や、この企業で頑張りたい思いをしっかり伝えることが出来た。そしてその日のうちに内定をいただき、私は現在の職場で働いている。私の妹も別の企業で内定をいただき、今でも同じ場所で今度こそ楽しく仕事をしている。
あのまま我慢していたら、私の頑張りは評価されていなかった
面接をしてくれた採用担当者も、内定を出してくれた社長も、前職で私が経験したトラウマも、妹の話も真剣に聞いてくれた。それが私は本当に嬉しかった。
今では当時の採用担当者は私の上司だし、社長は今でも別の企業で頑張っている妹のことを気にかけてくれる。
入社してから、“就労人数:女性社員1人、男性社員7人”というのは、新規の部署を開設するために必要な人員だったから、女性社員は私だけということが分かり、少し予想外だったけど、3年経った今でもなんとか続けられている。
今の会社に入社してから、周りからすすめられて初めて髪も染めた。
周りの友人達からも、昔よりなんだか明るくなったねと言われるようになった。
男性社員ばかりで、嫌な事や理不尽な思いをすることもあるけど、きちんと自分の働きぶりが評価されて昇進することが出来た。
あのまま我慢をしながら前職で仕事を続けていたら、自分の心はきっと壊れていただろうし、自分の頑張りもきっと正当に評価されていなかったと思う。
毎日少なからず嫌なこともあるけど、あの時の選択は間違っていなかったんだ、と胸を張って、私は届いたばかりの新しい名刺を名刺ケースにしまった。