上司に言えない悩みを聞いてくれた彼女。自信がついたらまた会いたい

前職の時の話。新卒として私を含めた5人、1人40代くらいの女性社員 (Aさん)が中途採用で入社した。年齢は全然違うけど、入社時研修など度々一緒になって、母親としての顔を持ちながら、豪快に笑う、勢いのあるAさんに圧倒された。単純に同じスタートラインに立つ、人生の先輩を心強く思い、まだ緊張感の残る新入社員の頃、その貫禄のある言動に何度も救われた。
入社したばかりなのに、会社にはAさんの知り合いが何人かいるらしかった。昔、同じ会社で働いていたとのことだった。どういった経緯で、引き抜かれたのかは分からないけど、会社が彼女に期待していたのは間違いなかっただろう。ちょうど私たちが入社した頃は、働き方改革とか、福利厚生、女性の雇用率、産休育休制度などに取り組み始めた時だったからだ。
営業職の私と、人事総務のAさん。私は入社時研修が終わると、アパートから片道1時間もかかる遠方の営業所へ配属となった。通勤時間の不満と、心細さなどもあった。たまの用事や研修などで本社へいくと必ずAさんとおしゃべり。本社でも存在感抜群で、同時に入社したはずなのに、所属部署の影響もあってか、私にとっては会社の「お母さん」的存在だった。
上司に言えない悩みを、Aさんに打ち明けたことも何度もあった。
ある時は、私の友人の一大事。まだ会社を休んだこともない私。今すぐにでも友人のもとへ駆けつけたいけど、何と説明しよう。とりあえずAさんに、いかに緊急な事案かを説明して、アドバイスをもらい、午後半休をとった。
将来について悩んでいた時にもAさんに話をした。新たに目指したいと思う資格を見つけ(仕事には関係ない資格)その資格を持っているというAさんに打ち明けたところ、現実的な視点から意見をもらい、 最終的には応援もしてもらった。
そして最大の相談と言えば、仕事に悩んでいるということ。Aさんが人事総務部だったということも大きいのだけど、部署異動や辞めたいという話をしていた。Aさんは、自分の立場からの意見も、そして会社の立場を無視した、個人的な意見もくれた。そんな中立に話してくれる人は、他にいるだろうか。Aさんの前では、つい弱い部分を見せてしまう。前職でのたった数年の間に、3回くらいは泣き顔を見せた気がする。
相談がある、と話を持ちかけるといつも会社の会議室に移動してマンツーマンで、目を見て真剣に話を聞いてくれた。それがどれほど心強かったか。まさに、思い出しながら文字を綴っている今、改めてその偉大さに気付く。そして聞くだけで終わりではなく、いつも何かしら動いてくれた。嬉しかった。結果、現状が変わらなくても、そういった人がいるということだけで。
でもあまりにも変わらない現状に、結局は根を上げてしまい会社からは去ることになったのだけど。
転職する前に、個人的に、1度だけAさんをご飯に誘って、夜ご飯を2人で食べたことがある。確か何か悩み事があって相談したかったのだと思うけど、その時ばかりはAさんの話でもちきりでそれどころではなかった。円満な夫婦関係で今でもラブラブらしい。それでも人並みに悩みはあるということ。そして障がいのあるお子さんがいるということ。普段の全開の明るさの裏にあった、全く見せていなかったお母さんとしての一面を垣間見た。
会計の時。奢られるつもりも元々なかったのだけど、
Aさん「これからも一緒にご飯行きたいから、割り勘でいい?」と一言。
一回り以上も年齢の離れた人と初めて2人でご飯に行って、奢るのが当然だと思う人もいるかもしれないけれど、私としては、しっかりしているな、こんな方法もあるんだなと単純に感心したのを覚えている。
Aさんは私の中で、優しくてかっこよくて、面白いお母さん的存在。前職を辞めた今でこそ疎遠になってしまっているけれど、いつか自分の生活に自信が持てたら、
「その節はありがとうございました。おかげさまで、元気です」
といっそ、Aさんの悩みを引き出してしまうような人間になりたいと思う。
沢山辛いこともあった前職で、Aさんに出会えたことは私の中で今でも大切な財産。
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