わたしのたくらみ。わたしの世界で生きている彼らを、少しでも多くの人に知ってもらうこと。

わたしの中には多くの人がいる。柔らかな笑顔が素敵な兄と、ニヤリとした笑顔の似合う弟。ちょっと子どもっぽい少年に、オドオドしている青年。しっかりもののおばさんと、おっちょこちょいのお姉さん。天真爛漫な幼女に、読書が好きな少女。言い出したらキリがないくらいたくさんの人がいる。
彼らはあくまで想像で、生きてやしないって人は言うけど、わたしはそう思わない。目を瞑ると鮮やかに光景が浮かぶ。彼らの容姿と動作、声や匂いまでも。まるで目の前に立っているみたいに浮かんでいる。

物心ついた時から一緒だった。小さな頃は「不思議な子ね」だったのが、大人になっていくうちに「そろそろ夢から醒めた方がいいよ」に変わった。
けれど無理だった。当然でしょ?彼らは生きているのだから。
わたしの中で、今を生きているのだから。

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彼らと一緒に色々な世界を旅する。魔法が飛び交う世界では氷の華を手渡された。紺碧色の世界では、海の中なのに呼吸ができた。真っ白で何もない世界では、感覚が狂って転けちゃった。AIが発展して仕事は自宅からVRで、なんて世界も行った。わたしは至るところを旅してまわった。
時にハラハラしながらも一緒に過ごせるのが嬉しかった。わたしには大切な人がいる。それが支え。

最初は一緒にいられるだけでよかった。楽しい時を過ごして、おしゃべりして、旅をできたらそれでよかった。でも今のわたしには物足りない。
地球という惑星の日本という国で、誰かと話す時に困ってしまったから。彼らはわたしにしか見えないし聞こえない。どんな人かもわからないし、現実を見たらって言われてしまう。わたしにとっては彼らも現実なのに。彼らも含めてわたしの生きる世界なのに。
どうしたらいいか、随分と悩んだ。その時、小説を読んで気づいた。わたしも書けばいいんだって。
小説も、言ってしまえば作者の世界の話。わたしの世界も描けるとピンと来た。
幸い授業の一環で書いてから、物語を紡ぐのが趣味になっていた。ちょうどいいとわたしは筆をとった。

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彼らとした会話や見た情景、そのままを描きとるのは難しい。けれどわたしは書き続けた。そうすればもっと多くの人に、彼らを知ってもらえるって。
兄はすっごく優しいけど、特定の人には甘えたがりになる。弟は何故か兄貴って感じだけど、ときどきヘタレになる。少年はわがままだけど、それは受け入れてくれる人がいるから。青年は好きなものを好きと言える素直さを持っている。おばさんは時々、天然が入る。お姉さんは人のいいところを見つけるのが得意。幼女はよく泣いちゃうし、少女は無視して読書に夢中。
そんな日常だったり、冒険した話だったりをひたすらに書いた。
そして人に見てもらった。
不思議な創作と言われるけれど、心の中では「実在するんですよ」って返している。彼らの生き様をただ伝えたい。
そして語りたい。今日はお菓子を作ったんだ、一緒に魔法を使ったんだ、とか些細なことを。
最終目標は、自分以外の誰かの心の中にも、彼らの世界ができること。彼らがわたしから飛び出して、誰かの世界にもお邪魔して生きていくこと。

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わたしのたくらみ。それは愛してやまないわたしの家族を、みんなに知ってもらうこと。誰かの中でも生きていけること。
わたしはそのために今日も書く。これを書いたのも、そのひとつ。読んだあなたの中にはきっと、彼らが訪れる余地ができたね。
いつかほかの世界で、一緒に冒険できますように。