高校の先輩に、芸能人に見間違えるほどお人形さんのようなきれいな先輩がいた。通りすがりの人が振り向いてしまうレベルの輝くばかりの美人だった。

文化祭の劇ではお姫様の役を演じて、私を含めて鑑賞していた生徒はあまりの美しさにため息を漏らした。
正直なところ、劇のストーリーはよく覚えていない。彼女の役は劇では目立つ登場人物ではなく、出番も少なかったはずだ。それでも、終盤に真ん中に立つ彼女の姿だけははっきり覚えている。

誰もが美人と認める先輩。大学生になるとすぐに芸能活動を始めた

通っていた高校は女子校だったので、彼女が男子と話すところを見かける機会は文化祭くらいしかなかった。もし共学だったら、彼女はモテすぎて凄まじい争いが起こっていたと思う。高校は真面目な進学校だったので、彼氏がいる子は珍しくて、「最近彼氏ができて……」なんて告白しようものなら質問責めにあうような雰囲気だった。

それでも彼女が他校の男子と付き合っている、なんて噂が流れても、「だってかわいいもんね、当然だよ」と誰もが思ってしまうような人だった。たまに「実は彼女ってすごい性格悪いんだよ」なんて噂を耳にしても、「美人だもん、性格悪くても許されるでしょ」「かわいさに嫉妬した人から悪口言われているんじゃない」と理由になっていない理由で私は納得していた。

私より先に大学生になった彼女は、すぐに芸能活動を始めた。読者モデルとして雑誌に載ったり、ファッションショーに出演したりしているようだった。

どうして知っているかというと、彼女のブログやSNSを頻繁に見ていたからだ。
実名で発信される彼女の芸能活動や旅行、メイクや服装など、あらゆるものに憧れた。私と同世代の女性らしきファンから寄せられるコメントも多く、応援されているんだなと思った。

SNSで見る先輩は、高校生の頃の憧れていた姿とはかけ離れていた

それから1年後に私も大学に進学したけれど、私はアルバイトとサークルと学業を程々に頑張る、ごく普通の大学生になった。憧れていた彼女のSNSから見える姿とは程遠かったけれど、私は私の学生生活に満足していた。

彼女のSNSのチェックは私が大学生の間も、社会人になっても続けた。ずっと見ていると、考えたくないことまで考えてしまうようになった。
「写真の加工がどんどん強くなってない?」
「顔や体型が前より変わった気がする」
「服やメイク、遊びにお金をかなり使っているけど、バイト代だけだと絶対足りなくない?」
「SNSでサプリとか美容皮膚科とか紹介して、お金をもらっているんだ」
「大学を卒業したって書いていたけど、まだこういう活動しているってことは就職しないのか」
「ずっと若くいられるわけでもないのに、これからどうするんだろう」

人気や美しい容姿など、自分が持っていないものへの僻みはもちろんあったが、高校生の頃に見ていた彼女からどんどんかけ離れていくことに、一抹の不安を覚えた。でも私は所詮同じ高校の、話したこともない後輩の1人。SNSを見て心の中で心配するしかなかったし、これからどうなるのか見届けたい気持ちもあった。

勝手に期待して、離れられないのは私の方

私が社会人として働き始めて3年経っても、彼女はSNSに自分の写真を載せ続けていて、私は時々見てしまう。
最近載せている写真に、私生活が分かるようなものはほとんどない。多くが体型がはっきり分かる写真で、スタジオで撮影したような背景を使っている。パッと見て不自然さを感じるくらい、加工も強い。とてもきれいだけど、もはや私が憧れていた彼女ではない。

あのとき私が、みんなが憧れていた彼女はどこにもいなくなってしまったようだ。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
校舎ですれ違ったときの彼女は誰よりも美しくて、私の憧れだったのに。ずっと思っているけれど、変わっていく彼女をただ見ているだけだった私は、そんなことを言える立場にない。彼女は彼女の意志で変わることを選んだ。いつまでも勝手に期待して、彼女から離れられないのは、私の方だ。

本名で発信を続ける彼女のSNSを、私はこれからも匿名の立場から見てしまうんだろう。見るたびに自分の性格の悪さを噛み締めながら。