私は、大学生になるまで、ラーメンが美味しいと思えなかった。
家庭の食事で、ラーメンやカップラーメンを出されても、食べ切れた試しもなかった。汁はしょっぱいし。同じ麺類なら、スパゲッティーの方が美味しいと思っていた。
そんな自分がラーメンって美味しいなと思ったきっかけとなる出来事がある。

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それは、私が大学1年生の時だった。
私は大学進学と同時に、地元を出て、一人暮らしをしていた。生まれてきてからずっと地元にいたので、全てが真新しい日々だった。

高校時代は大学受験のために勉強させられている受け身な姿勢だったからこそ、大学は興味がある分野を勉強できて楽しかった。

また、大学がある土地はとても文化的だった。地元は、本当に買い物や遊び場の選択肢が少なかった。けれども、進学先は地元の何十倍も買い物や遊び場の選択肢がある。今まで、雑誌やテレビで見ていた、自分の中では異世界で、外国の景色だと思っていたものは、全て目の前にあった。

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沢山の希望や理想を持って新生活を始めたが、順風満帆とはいかなかった。なかなか心許せる友達ができなかったり、同じ学部の人とうまく関わることができなかったり。
理想との離に、他の人は心許せる友達グループを作ってたりしているのにうまくいかない自分にイライラすることが多かった。そんな時、同じ授業を履修していた、同じ学科の彼女に出会った。

彼女は彼女で、仲のいい友達グループの子がいた。けれども、同じ授業の時私に話しかけてくれた。授業内の課題や、学科内の話題。授業を履修したり、大学生活を送る上でとても助かったし、心強かった。

ある日、彼女、大学帰り近所にある中華食堂にいかない?と誘ってきた。
その中華食堂は、大学がある地域では有名なチェーン店だという。しかし、他所からきた私には耳馴染みはなかった。連れて行ってくれた中華食堂は、主な客層は会社帰りのサラリーマンばかりだった。座席はファミリーレストランのようなボックス席、おひとり様に優しいカウンター席がある。お店のメニューを見ると、1000円以下でラーメンと餃子とチャーハンがセットで提供されており、その安さに驚いた。ラーメン単品だと500円ぐらい、何とも学生に優しい値段設定だろうか。メニューを見ていると、焼き鳥丼とラーメンセットと餃子のセットがあった。

餃子は、地元にいた時よく父が買って帰ってきて好きだったし、鶏肉が好きな私は、美味しそうなタレがかかった焼き鳥が気になって注文してみることにした。提供された焼き鳥丼は、タレが効いていて美味しいし、餃子はパリパリしていて美味しい。ラーメンは、あまり好きじゃないんだけどなと思いつつ、食べてみた。すると、醤油味が効いてとても美味しかった。人生で初めてラーメンってこんなに美味しかったんだと私はショックを受けた。思わず彼女にラーメンってこんなに美味しかったんだね!と伝えた。
ラーメンを食べながら、彼女と色々な話をした記憶がある。人間関係のこととか、好きなアニメの話とか。優しく聞いてくれた。彼女も、彼女の悩みや好きなことを話してくれた。

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その日から私はラーメンへの苦手意識が確実になくなった気がする。時が流れてできた同じ学部の友人に、どこか食べにいかないか、なるべく安めでと誘われた際、その中華食堂に行かないか提案して行った。安さと美味しさに満足してもらったことを覚えている。

ラーメンの美味しさを教えてくれた彼女とは、大学生活後半から、履修している授業が被らなくなり、疎遠になってしまった。現在、彼女はどこで、なにをしているかわからない。
また、その中華食堂も大学周辺の地域しかチェーン展開をしておらず。大学卒業後、その地から離れてしまったので、卒業後は一度も食べに行けてない。けれども、美味しいラーメンを食べるたびきっと彼女のことを思い出すのだろう。