5年ほど前からずっと気になっていたパン屋さんがあった。ただ、岩手県にお店を構えていたので、関東に住む私は「岩手に用事ができたときに寄ればいいか」と悠長にも考えていた。
当然、これは大きな間違いで、そのお店は今年の頭に閉店してしまった。とても大きな後悔。
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実家の近所に食堂がある。私が生まれたときから、特製ラーメン350円、カレーライス450円、カツ丼550円。おいしくて盛りが良い。最近の物価高で50円、値上げしたらしいが、それでも安い。しかも近所ならば配達を無料でしてくれる。利益は出ているのだろうか。
店主のおじちゃんがおかもちをつけたバイクを乗り回すのは、昼時のいつもの風景だった。おじちゃんはご近所さんを道で見かけると、必ず挨拶をする。小学生だった私にも欠かさず。
そんなに頻繁に食べていた訳ではない。例えば、祖父母や叔父夫婦と集まっていて、お昼ご飯どうしようか、となったときの選択肢のひとつ。そういう時は出前をお願いしていた。
メニューは色々ある。当時の私はその日の気分で選んでいたので、これを絶対に頼むというものはなかった。けれども、今思い返すとどうしたって特製ラーメンが強烈に浮かび上がる。
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届けられた特製ラーメンはやや伸びているが、それもまた妙に美味しい。シンプルな醤油ラーメンに野菜炒めがのっているのが特製ラーメンだ。もやしのしゃきしゃき、キャベツの甘み、豚肉の旨味がスープに溶け込む。ひと口飲むと、後に胡椒の香りがふわり。多分、この食堂の一番人気。お店へ行くと、お客さんの半分はこれを頼んでいる。
結局これが一番うまいんだよなあ。祖父と父はいつも特製ラーメンを選んでいた。
数年前だったか、帰省したときに食堂へ訪れた。久方ぶりの、特製ラーメン。できたてほやほや。伸びてなくても、もちろん美味しい。
懐かしい、何年振りに食べたんだろう。記憶の中の美味しさと変わらない。夢中で麺をすすっていると、店のすぐ外からバイクの止まる音がした。出前を届けたおじちゃんが、店に戻ってきたのだろう。
ややあって、がらり、と扉が開いた。
おじちゃんが、おじいちゃんになっていた。こちらを向いて「お、いらっしゃい」と見せる笑顔は変わっていない。そして次の配達をするためにおばちゃんからラーメンの器をいくつか受け取った。すぐさま颯爽と出ていったおじいちゃんは、バイクを乗り回す。
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ちょっと衝撃的だった。数年見ないうちに、こんなにも人は老いるのか。そうだ、このお店もいつまであるかわからない。いつもおじちゃんとおばちゃんが切り盛りしているし、後継の話も聞かないし。
地元を離れた今、あと何回この味を食べられるのだろうか。それに気づいた途端に惜しくなる。近く消えてなくなるかもしれないのだ。特製ラーメンのみならず、もったりとした濃厚カレーライスも、昔ながらのグリーンピースが3つ飾られたカツ丼も。
人生の隣にあり続けた味を、許す限り食べたい。今度は後悔しないためにも。