本当に無理な日は半額ピザを頼む。食べると生きる気持ちが湧いてくる

大学生のころ、今よりも生きるのが下手くそだった。
すべてのことに一喜一憂しては体力を使っていたし、PMSをコントロールできなくてこの世のすべてに当たり散らかしていた。そして月に1回程度、ホルモンバランスからか気圧からか、心臓に鉛を流し込まれたように、どうにもやる気が出ない日があった。
そもそも不眠で寝れなくて、なんとか寝たのに中途覚醒を繰り返す。まだ眠い、まだ眠い、と昼過ぎまで二度寝三度寝を繰り返す。
そんなことをしていたらお腹が減って、こんなときのためにとサイドテーブルに置いてあるチョコチップクッキーを数枚と水を少し口にして、また昼寝。
不思議と昼寝は深く眠れるもので、気づいたら部屋は真っ暗。手探りでつけたスマホの眩しさに顔をしかめる。時刻は20時過ぎ。ああ、またやってしまった。またなにもせず1日を過ごしてしまった。
今ではこういう「何もしない日」の大切さが分かるのだが、当時はもう全部終わりなんだ!という気持ちに苛まれてしまっていた。
1日中寝ていたのに動けなくて、また自己嫌悪……という負のループにハマれば、逃げるように目を閉じても眠れない。良くない考えがどんどん浮かんでは、不安が追いかけてくる。
目に見えない怪物から逃げるように、またスマホを開いて、惰性でSNSを眺める。楽しそうな友人の投稿。普段なら嬉しいはずの推しの告知。
どれにも、まるでジュースの成分表を眺めているときのように何の感情も湧かない。ただぼーっと活字の海におぼれているだけ。
当時のTwitterはおすすめ欄がなくて、TLの投稿を見終わったらそれがすべてだった。TLを更新したり、別のアカウントのTLを眺めたりして、できるだけ何も考えないように時間を過ごす。
それでも短時間で更新を繰り返せば、ついにリアルタイムの投稿は無くなった。諦めてアプリを閉じても、手が無意識にアプリを開く。そんな自分にも嫌気がさして、スマホを消して、また目を閉じた。
そうしてようやく自分と向き合うと、どうしようもなくお腹が空いていることに気付くのだ。1日中ほとんど何も食べていないのだから当たり前なのだが。
ちゃんと腹に何か入れなければと思うけれども、カップ麺のお湯を沸かすのすら面倒くさい。ましてや米を炊いたりおかずを作ったりするだなんて。
お腹が空いた。でも起き上がれない。
わたしには、そんなときの最終手段があった。月に一度、もう本当にどうしようもないときだけは「宅配ピザ」を使っていいと自分と約束していた。
今度は意思を持ってスマホを開く。1枚で4つの味が楽しめるピザの中から一番安いものをカートに入れた。先月の似たような日にもらったクーポンを使って、50%オフにすることも忘れない。
一番のポイントは、ピザの受取方法を対面に設定すること。玄関前に置いてもらうのは顔を合わせなくて便利だが、早く取りにいかないと、最悪冷えたピザができあがる。
しかし対面受取にしておくことで、チャイムが鳴ったら強制的に起き上がれるばかりか、熱々のピザを食べることができるのだ!
箱を開ければ部屋中にあのジャンキーな香りが広がって、さっきまでの沈んだ気持ちが少し吹き飛ばされる。まさに「空腹は最高のスパイス」だなと思いながら、まずは王道のマルゲリータを手に取る。小麦とトマトの香りが口いっぱいに広がって幸せだ。そのままチーズを伸ばす。どこまでも伸びて、面白い。
4種類を1切れずつ食べれば、あっという間にお腹がいっぱいになった。普段からあまり食べないせいで胃が縮んでいるせいだ。
残りは明日の朝食と昼食にするため、箱を閉じて冷蔵庫にイン。トースターで温め直して、少し焦げたチーズを食べるのもまた美味しい。
お腹が満たされれば、少しだけ心は軽くなる。まだ本調子ではないけれど、「まあ死ぬことはないか」と思えるのだ。そして冷静になった頭に疑問が浮かぶ。
どうしてあんなに苦しかったんだろう。
後日調べたら、どうやら人はお腹が空くと、イライラしたり不安になったりとネガティブになってしまうらしい。お腹が空いた状態、つまり血糖値が低い状態だと、脳が正常に働かなくなって、気持ちが不安定になる。英語では、hungry(空腹)とangry(怒り)を合わせた「hangry」なんて単語まであるそうだ。
人は食べないと生きていけないのだから、生物としてよくできた仕組みだと思う。
嬉しい時も悲しい時も、元気な時もどうにも身体に力が入らないときも、食べれば身体の底から「生きるぞ」という気持ちが湧いてくる。
最近では自分をコントロールできるようになってきて、あの日のように沈んでしまう日は少なくなってきた。
けれど生きていれば、誰にでも「もう無理!」という日は訪れる。
そんなとき、わたしたちは食べることで、生きることを取り戻している。
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