「首相」と「大統領」を言い間違えた彼氏に感じたモヤモヤ

「このままじゃ、○○大統領が誕生しちゃうよ~」
彼氏が笑いながら言った。
○○の部分には、有名な二世議員の名前が入る。独特な言葉選びや曖昧な発言が多いことで、ネット上で度々話題になっている人物のことだ。
お察しいただけただろうか。彼は、日本の政界について話しているのだ。
「○○がなるとしたら、大統領じゃなくて首相だよ……」
呆然としながら私が言うと、彼は「あー、そうだった」とはにかんだ。
誰にでも言い間違いはある。私だって人名や店名を間違うこともある。だけど、大統領と首相は間違わないだろう、というのが私の感覚だ。彼もさすがにゆっくり考えれば日本の内閣のトップは首相だ、と分かるんだろうけど、普通は考えなくたって言い間違えたりしない。アメリカと日本を言い間違えるのと同じくらい、あり得ないんじゃないかと思う。
この発言に眉をひそめたくなってしまうのは、単に大きな間違いだからという理由だけではない。そこを間違えるくらい政治に疎いのに、批判するような文脈でものを言う、その姿勢を愚かしく感じてしまった。
彼が「誕生しちゃうよ~」と言ったのは、つい先日「○○が救世主扱いされている」という指摘がSNSで飛び交ったからだろう。選挙のためのパフォーマンスの政策で、○○の手柄なのだと国民に刷り込もうとしている……みたいな内容の投稿が散見された。きっと彼は大して調べることもせず、それらを真に受けたのだろう。
私は思った。バカが知った顔で政治にもの言うんじゃないよ、余計バカがバレるんだから……と。
しかし、自らのこの指摘が間違っていることにも気づいている。バカが政治に関心を持ってはいけないなんて、そんなわけはないのだから。政治に興味のあるバカとそうでないバカなら、前者の方が幾分かマシだ。
調べもせずに意見するのは安易だけれど、一概に悪いこととは言えない。政治はハードルが高いと捉えられてしまうと、無関心の層が広がる懸念がある。まずは気軽に話せる雰囲気があった方がいいのかもしれない。
彼はバカだけど、尊敬できる面もたくさんある。
一般常識が極端に欠けているからこのように日常会話でバカがバレてしまう一方で、専門学校で学んだ技術を生かして仕事をしている。通っていた生徒のほとんどが他分野の職種に落ち着くなか、一つの職種を極め、楽しみ続けている。それに3DCGのソフトを独学で習得していたりもする。興味があることにはとことん、というタイプなのだ。SNSのフォロワーも多く、そのアカウントを主体にした副業で年間数十万円の収入を得ている。いずれ独立したいという夢があり、状況的にも決して無茶な願望ではなさそうだ。
あと、私が何か指摘をしても全く不貞腐れたりしないのも偉いと思う。
彼はとにかく言い間違いや誤用、知らないことが多い。ただの友人ならいちいち言わないが、パートナーとして教えた方が彼のためになるのでは……と思い、毎度指摘している。私もキツい言い方はしないよう気をつけてはいるが、こうも頻繁に言われたら嫌な顔をする人もいるだろうに、彼はそうじゃない。勉強になるなぁ、と言ってくれている。その割には同じ間違いを繰り返したりとあまり進歩はないのだけれど、機嫌悪く振舞われるよりよほど良い。
だけど、やっぱり大統領発言は許容できない……!
私だって決して頭がいい方じゃないのだから、そんな私に呆れられているようじゃダメだ。人間、最低限の知識はあった方がいい。
我々はまだ20代だ。ここからなんとか、頑張ってほしい。私も頑張るから。
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