ヨーロッパ旅行をしたと話すと、きまってどの国・都市が一番よかった?と聞かれる。私はそれに対し、大抵はベルリンかプラハだと答える。

最も長い時間を過ごした留学先のイギリスではたくさんの思い出がある。が、やはり旅先として魅力的だったのは、中央ヨーロッパにあるチェコ共和国だった。首都であるプラハは歴史ある建築や古い街並みの美しさで世界中の人を惹きつけてきたが、私も実際その街に足を踏み入れ、たちまちとりこになってしまった。広場にたたずむ600年以上動き続けている天文時計を前に、多くの観光客がカメラを向けていた。

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4月にもかかわらず強く照らす太陽から隠れるように小さな雑貨店に入ると、少し冷房の効いた暗がりの店内と、奥に無愛想な店長が一人座っているだけだった。観光客の目を引くようなお土産が並ぶ棚を眺めていると、ビンテージ風のコーティングがされた、百円玉ほどの大きさのある時計が目に留まった。時計の上部つまみを押すと蓋が開いて時計の針が見えるそれは、プラハの時計にそっくりなデザインだった。どうやって時計の針を合わせるのだろう。……まあ、時計の針の合わせ方や電池の変え方は分からなくてもいい。時計そのものは飾りだ。一目惚れだった。幾何学模様のあの精巧な、機械仕掛けの時計。何百年も、人々とその街を見守ってきた。彼らの時を刻んできた、なんて考えるとうっとりしてしまう。

プラハで買ったその時計をペンダントにして、ときどき身につける。他のデザインの時計に比べて少しだけ高いような気もしたが、自分のために買いたいと思った。何となく、プラハの時間を刻みたくなった日はそのアクセサリーを身に着ける。そうしている間は、プラハでの出来事を思い出す。

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滞在した時間は一日足らずで、一人で旅をしていた。今では、知らない土地を一人で散策するとは、怖いもの知らずだったな、と自分でも思う。無鉄砲な私は、観光客向けのディナーツアーに参加した。一人で参加する人もいるのかと思っていたが、大半が家族や友人と来ていて、楽しめるだろうか、と心底不安だった。しかし、相席した人たちは大変親切に接してくれ、私はすぐに彼らと打ち解けた。「ごめんなさい、お邪魔しちゃって」と私が謝ると「ううん、大丈夫よ」と暖かく答えてくれた。プラハで学ぶアメリカ人のカップルと、アメリカからやってきた男性の方の両親と近所に住むおばさん、そして日本人女子大生の私、というなんとも愉快なテーブルが出来上がった。学生カップルは大学生とは言え、私よりいくつか年上に見えた。それからは、自己紹介をしつつ、伝統料理と音楽を楽しみ、ビールを片手に陽気な夜を過ごした。隣に座っていたおばさんが「I can hug you!」と帰り際に言ってくれた瞬間は、きっと一生忘れないと思う。

次の日、朝の早い時間にプラハの街に繰り出しカレル橋やプラハ城、大聖堂を外から見て、スケッチをした。壮大な中世の街は、戦争や災害にあっても修理・増築を経験しながらも守られその事実に心ふるえた。プラハでの一期一会は宝物で、今も大切に胸の奥にしまっている。

チェコにはまだ見たこともない、行ってみたい場所がたくさんある。またいつか、お金を貯めてあの街をもう一度訪れたい。次は誰かと一緒に感動を分かち合うのもいいかもしれないな。