上野公園に行った日のこと。美術館の特別展に向かう足取りは軽かった。
約一ヶ月振りにも関わらず、見える景色は違っていた。
リニューアルオープンした国立西洋美術館。「世界最初のエコバッグ」として無料配布されていた風呂敷。
外国人観光客の人数が増えた。当時暑かったこともあり、ノースリーブやハーフパンツといった装いの人も多かった。そして、一部の外国人観光客は、肌にタトゥーを入れていた。

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その光景を見て、ふと私の頭に「たくらみ」がよぎった。
タトゥーを入れた外国人でも楽しめる、銭湯施設をつくることができないか。

日本は、タトゥーを入れている人に対してマイナスなイメージを抱く社会だ。
古くからタトゥー(刺青)を入れている人は、柔らかいニュアンスで言うと、「悪い人」「やんちゃな人」という先入観を持っている。
タトゥーを入れた人は、風紀を乱す、他者に危害を与える可能性がある、といった理由から、銭湯をはじめとした公共施設に入館できないことが多い。

一方、グローバルな視点で見ると、国や地域によって、タトゥーを入れる意味合いが日本とは異なるケースも多い。
例えば、伝統や宗教、ファッション、思い入れの強いもの(家族の名前など)を刻むために、タトゥーを入れる人が世界中に存在する。

これは私の経験だが、ヨーロッパの留学中に、とある国でよさこい活動をしているサークルに出会った。日本文化であるよさこいを現地人と日本人が協力し合いながら、練習に励んだり、ステージを楽しむ姿を見て、とても嬉しい気持ちになったのを今でも覚えている。
ふと、とあるメンバーを見ると、よさこいで使う楽器である「鳴子」のタトゥーを腕に入れていた。鳴子のタトゥーを見るのはもちろん初めてで驚いたが、それだけよさこいや日本文化に強い関心や思い入れがあることを、直に感じた。
他にも、日本文化が好きで、和風のタトゥーを入れている外国人もいるだろう。

日本に関心を持つ外国人たちが日本に訪れた際、タトゥーのせいで行動を制限されるのは悲しい。
来日したからには日本の法律やルールを守るのは当然だが、「郷に入りては郷に従え」を強要する必要はあるのだろうか?
せっかく日本に来たのなら、日本文化を楽しんでほしい。そんな中で、上野公園で真っ先に思い浮かんだのが「銭湯」だった。

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もし、私がタトゥーを入れた外国人を受け入れる銭湯施設をプロデュースするなら、以下の三つの取り組みを導入したい思う(前提として、もちろん日本人も利用可能とする)。

一つ目は、入館前の身分証明と同意書の記入を必須とすること。
身分証明には、パスポートや運転免許証など顔写真付きの身分証明書を使用する。また、同意書に記載された注意事項や誓約事項を確認してもらい、同意のサインをしてもらう。これらの事項を破った際のペナルティを設けることはもちろん、身分証明や誓約書をスキャンしてデータ化し、アナログとデジタルの両方で厳重に管理したい。

二つ目は、タオルを巻いての入浴を認めること。
例えば、ヨーロッパにも公共浴場があるが、水着を着ることが主流だ。日本のように、見ず知らずの人と一緒の浴槽に裸で入ることに抵抗を感じる人も多いだろう。
この場合も無理強いはしたくないため、タオル巻いての入浴は可能にしたい。ただし、衛生面を考慮して、タオルは施設で貸し出すことにする。

三つ目は、浴室の装飾を定期的に変えること。
日本は小さな島国と思われがちだが、世界の約200か国のうち60位前後と、意外と広い国である。そして、日本各地に観光地が揃っている。四季の風景を含めると、日本の美しい風景を全て見ることは、日本人でも地理的かつ金銭的に難しい。
そこで、季節ごとに浴室の内装を変えることを思いついた。例えば、春は桜。都内の桜スポットは有名だろうから、青森県弘前市にある弘前城と桜の風景や、花びらが敷き詰められたピンク色の川の風景を内装にするのもいいかもしれない。その場所に「行った気分」を味わってほしい。

この「たくらみ」を自分の力で実現できるかわからない。それでも、国や地域によって文化や考えが異なるのは当たり前であることを理解し、「郷に入りては郷に従え」を無理強いしない世の中になってほしい。
そんな気持ちを、心の中にファイリングしておこう。