「やり直したい夏」が私を動かす。違和感と向き合う勇気がくれた一歩

「もしも、あの時の夏をやり直せたら……」。
そう願い続けた夏があった。
毎年夏になると、何か新しいことに手を伸ばしたくなってしまう。
一人旅や語学学習、エレキギター、さらにはエッセイ執筆などなど。
色々思いついては、ほぼ無計画に始めるのが毎年のルーティーンだ。
理由は2つある。
1つは「思い切りやりたい!」という気持ちが強くなること。
そしてもう1つは、「過去の自分を乗り越えたい」からだ。
最初に挑戦したのは、20歳になる年だった。
高校生になる前の私は、少女漫画やドラマのような青春に憧れていた。
合宿や文化祭、夏祭り、花火大会など眩しくて、キラキラした世界。
高校生だからこそ味わえて、かつ誰しもが輝かしい夏を送ることができる。
そう思っていた。
しかし、現実は違った。
体罰やいじめなど、私の高校時代はバイオレンスな出来事が当たり前だった。
「出る杭は打たれる」。
その言葉の通り、少しでも目立つことをすればすぐに叩かれる。そして、二度と頭を出すことができなくなる。
私もその杭の1人だった。
ちょっとした行動がきっかけでいじめの標的となり、地獄の3年間を過ごした。
そのため、キラキラとした思い出を作ることができなかった。
しかし地獄にいても、憧れだけは心の奥に残っていた。
教室やファミレスでバカ話をしたり、花火で盛り上がったり……。
心のどこかで求めていた。
「もしも、あのときの夏をやり直せたら……」
20歳になる年の夏にふと思った。駅で見かけた高校生たちがきっかけだった。
夏休みの予定でも話しているのだろうか、声は跳ね上がっていた。
夏だからだろうか、2人がキラキラ輝いていた。
「ああいいなー、若いなー」と思ったと同時に、「あれ?」違和感に気付いた。私には懐かしく思える記憶が無いのだ。
再び女子高校生たちを見た。そして私の心に、ぽっかりと穴が空いていたことに気付いた。
「このままでいいのか?」
「穴を埋めるには、行動するしかないんじゃない?」
ふいに青春を味わえる場所がひらめいた。
私は家に帰り真っ先にクローゼットへ向かった。そしてくしゃくしゃにしていた高校の制服を引っ張り出した。
当時はあんなにも着たくなかったそれを着て、ディズニーランドへ向かった。
明るい髪色に、真面目な制服。首からはキャラクターを模したポシェットをぶら下げていた。アンバランスであろう私の姿に、電車内や駅ではチラリと目を向ける人もいた。
普段の自分なら耐えられなかっただろう。
けれど、その日は違った。チラチラ見られても構わなかった。
私は青春を手に入れたい、それしか眼中に無かったからだ。
その日もとても暑く、一緒に来た幼馴染もばててしまう程だった。
しかし私の気持ちは、それ以上に熱かった。
全てがまぶしい。
以前行ったことがあるはずなのに、目に映るものがキラキラで新しい世界だった。
私は暑さを忘れ、全力ではしゃいだ。笑って、写真も沢山撮った。
まるで、本当に青春を謳歌している高校生のようだった。
私はあの時できなかったことを、夏のおかげで叶えることができた。
あれから十数年。
その後も色んな事に挑戦してきた。しかしあの夏の経験が無ければ、前向きに行動できなかったと思う。
あの夏が心を変えてくれたのだ。
今年の夏は何に挑戦しようか?あの時のように 少しだけ勇気を出してみたくなった。
新しい自分に生まれ変わるために。
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