駅から自転車で15分。保育園と中学校を通り過ぎる。
3つの角度が違う上り坂。ゆるめときつめと超きつめ。自転車で登りきれたら勇者だ。
絶対途中で降りた。無茶な挑戦はしない。
坂が終われば4つの白い長方形の建物たちが見えてくる。
私が高校2年生まで住んでいた団地。友達たちと住んでいたところ。どんな思い出を話しても必ず出てくる。
この場所はずっと忘れられない。
◎ ◎
小学校の同級生はほとんどが団地に住んでいた。私が住んでいた団地もその中の1つ。団地内の公園はうちのすぐ隣だったから、見知った顔がよく遊んでいた。
近所の友達とのお泊り会。
団地全部をつかったかくれんぼ。
トトロの道を通った先の秘密の場所。
小中学生の幼い思い出が全部ここにある。
夏には地区対抗のお神輿作り大会があった。各地区でお神輿とおひねり入れの出来栄えを競う、というもの。小学生は団地内の小さなおもちゃみたいな公民館に集まって、夏休みの間中お神輿づくりに専念する。バレーボールのキャラクターを作った年をよく覚えている。
暑いからやりたくない。でもやらなければ終わらない。ひたすら紙を重ねてホッチキスで止め、花を咲かせる。これの繰り返し。
両親が仕事でいない平日とかはここで時間をつぶしてた。午前中で終わりだけど。集まるたびにもらえる小さなアイスやお菓子がとても嬉しくて、まだかまだかと心待ちにしていた。
お神輿が完成すると、今度はそれを担いで夏祭りに参加する。日差しが照りつける中、わざわざ遠回りしてグラウンドに向かった。地獄。
でも、周った先のおばあちゃんとか友達の弟とかは、嬉しそうにおひねり箱にお金を入れていた。毎年の結果はまったく覚えていない。暑い中、鳴子や鈴、ペットボトルにピーズを入れて作った楽器をジャカジャカ鳴らして歩いた記憶でいっぱいだ。
◎ ◎
冬には石焼き芋屋さんが来た。団地の真ん中、四方を棟に囲まれた開けた駐車場に来る。
「い〜しや〜きいも〜、おいもっ」
この音が聞こえてきたら冬だなと思う。ちなみに一度も買ったことがない。友達も、ない。買ってる人を見たこともない。けれど毎年必ず来る。音だけさせて気がついたら帰ってる。
毎年冬に見かける光景。
この団地は中学生までの子供が家庭にいると家賃が安くなるらしく、子供が大きくなるとほとんどの人は出ていった。小学生の頃に3人、中学生の頃に1人、そして高校生になって私の家が出ていった。同じ団地に住んでいた友達たちは、もう1人もあそこに住んでいない。
けれどあの団地はまだある。
私がいた部屋、友達がいた部屋には、もう全然知らない人たちが住んでいる。自分が住んでいないというだけで全く違う建物に見えるから不思議だ。
5月になれば、2つの棟を繋いで鯉のぼりがかかる。
道路に面した部屋がクリスマスに小さなイルミネーションを始める。
向かいの駄菓子屋さんは潰れてしまった。
トトロの道を通った先のあの秘密の場所はまだあるのだろうか。
幼い頃の私たちが駆け回った団地。
たまに車で近くを通る。
ふっと視界を横切る団地を見ると、あのときの私達がまだそこにいるかのように思う。