辛い食べ物が好きだ。花椒や山椒とかの痺れる系よりも、唐辛子の熱くなるような辛さが好き。旨みや酸っぱさが伴ってるともっと好き。

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一人っ子だからか、物心ついた頃には辛いものはあたりまえに食卓に並んでいた。キムチはわたしが箸をつけないとしてもおかずの一つとして並んでいたし、カレーは結構早々に中辛になった。周りと比べて辛いものが食べられない、という時期を一切経験することなく大人になった。お酒を飲めるようになると、辛いものとお酒の相性を愛するようになった。

バッファローウィングとビールとか、辛いラーメンとハイボールとか、ヤムウンセンとタイビールとか。わたしは辛いものともお酒ともイメージの合わない見た目をしているらしく、周りには何度も驚かれてきた。大抵の場合はとても好意的な驚きを含んだ反応が返ってきて、「ああこのギャップはウケるんだ」と感じたときから尚のこと辛いものを好むようになった気がする。ある意味社交的に辛いものが好きな側面も持っている。

「ストレス溜まってるんじゃない?」と訊かれることも結構ある。これはわたしが今身を置いてる環境を知っている人に多いのだけど、たしかにストレスを感じたタイミングで辛いものを食べがちな気もする。

ただ、わたしがストレスを感じるときって何よりも疲れているときで、酸っぱいものを食べると落ち着くことが多い。そうわかっているからこそ、毎回辛いものを食べはしない。わたしが辛いものを食べたくなるときって衝動を伴っていたり、夢心地のときだったりすると思っている。表に出すのが苦手な怒りを発散したいときなのかもしれない。

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この前無性に辛いものを食べたくなったのは、お店での対応にモヤモヤした後だった。わたしがしたい手続きは時間がかかるから後ろに1人だけ並んでいる人に先に行ってもらおうとしたら、お店の人に止められた。特例を認めてしまえば収集がつかないというのはわかる。

でも、1つしかないレジを長時間占拠してしまう居心地の悪さはものすごくて、終わったあとに後ろに並んでいた人に頭を下げた。お店を出た瞬間辛いものを食べたくなって、近くにあった辛いラーメンを提供しているお店に入った。いつもより辛めに調整して、口に放り込んでしばらく。幸せな辛味と旨味が口の中に広がって、モヤモヤした気持ちは隣に置いておけるくらいには落ち着いてきていた。

たまに、いつまでこうして思うままに辛いものを食べていられるかな、と考える。からだが香辛料を受け付ける限り、わたしは辛いものを食べていたい。怒りたいときなんて人生には無限にあるだろうし。

でも、歳を重ねておばあちゃんになって辛いものを食べられているひとをあまり知らないのも事実だ。入院なんてしようものなら、辛いものを食べる機会は大きく制限されるだろう。だから衝動的な感情の受け先を増やさなくてはいけない。新しいものと出会い続けてトライアンドエラーを繰り返しながら、辛いもの以外の発散方法を考えるのは、結構重要な課題なのかもしれない。