「辞退していいんじゃない」留学目前、不安になった私へ母から一言

2014年の夏、私は成田空港からモスクワ経由でストックホルムへと向かった。涙ながらに母としばしの別れを告げ、保安検査場のゲートをくぐった。これから始まるスウェーデンでの留学生活。自分で望んだ道なのに不安で不安で仕方なかった。
その1年前、私は短期の語学研修で長年の憧れであったニュージーランドで過ごした。渡航前は、この語学研修が長期でニュージーランドに留学するためのお試し留学と捉えていた。しかし、夢を叶えたのにも関わらずしっくりこなかった。通った語学学校が日本人だらけで「この環境では私は成長できない」と感じたからだ。
そこから留学計画を練り直し、私は語学を私費で学ぶ留学スタイルから方向転換し、交換留学を目指した。交換留学とは所属の大学と提携する派遣校の大学で単位を取得できる制度。計画的に単位を揃えることができれば、休学することなく4年間で卒業することも可能だ。その上、返済不要の国からの奨学金や大学からの補助金も活用でき、経済的な負担が少ない。さらには、ニュージーランドでの経験によって「英語を学ぶより、英語で専門分野を学ぶ留学がしたい」と気づいた私にとってベストな留学スタイルだ。
北欧の福祉や教育に興味関心があったことや恩師からのアドバイスで、なかでもスウェーデンの大学での留学を希望した。目標が定まってからは語学勉強に励み、書類や面接での審査を経て見事選考に通過できた。
しかし、留学が決まってから渡航までの準備期間、何度も「辞退」が頭をよぎった。派遣生のために設けられた完全英語の授業についていけず、留学に必要な手続きがすべて英語で書かれており理解するのに苦労したからだ。「留学準備からつまずいて留学先でやっていけるのだろうか?」「頼れる人もいない環境でさまざまな困難に対処できるのだろうか?」と不安が募っていた。
あるとき、「留学を辞退しようかな」と自分で抱えきれない感情を両親にぶつけた。「せっかくいいチャンスなんだから挑戦してきなさい」と言われることを前提にその弱音を吐き出したのだ。しかし、返ってきたのは思いがけない一言。「あなたの人生なんだから、辞退していいんじゃない」。
これは誰のためでもない、私自身のための留学であり挑戦だ。ここで辞退するも挑戦するも私が決めることであり、私の自由なんだ。ここで挑戦しなかったらきっとこれからずっと「あのときスウェーデンに行っていれば」「あのとき辞退していなければ」と後悔を引きずり続けるかもしれない。後悔するなら「やらない」より「やって」後悔しようと私の心に火が付いた。
そうして私はひとり、スウェーデンへと旅立った。
手配済みだと思っていた羽田行きの航空券はまさかの未払いで当日正規料金で購入。渡航の前日に派遣校の大学から「申し込みがされていないため、入寮できません」との連絡。オリエンテーション当日に提出が求められていた資料の存在も知らずに慌てて手配。
私の留学生活を思い返すと失敗や挫折ばかりで、ひやっとする体験も数知れず。落ち込んだり、泣いたりした日もあった。
それでもスウェーデンでの生活は私のこれまでの人生において最大の財産だと思っている。あの日々や経験があるから、その後の人生で多少つらいことや苦しいこと、うまくいかないことに出くわしても「あのときのできごとに比べたら些細なことだ」と思える強さが私には備わっているのだ。
スウェーデン留学から帰国して10年がちょうど経った。20歳だった私も30代に突入した。今や結婚して子どももいる。広い視野で物事を捉え、日本国内にとどまらず世界へ羽ばたけるような経験を親子で積み重ねていきたい。留学という経験は人を強くたくましくしてくれるから。
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