麻辣湯(マーラータン)が流行っている。赤いタイプの辛いスープに、野菜、肉、魚介などのいろいろな具材が入っている麺料理だ。私のお気に入りのインフルエンサーさんが自炊でよく食べており、以前から食べたいと思っていた。一度、紹介されたレシピを元に作ってみたが、いかんせん本物を食べたことがないので、正解も分からず、なんか辛いぐずぐずに煮たうどんのようになってしまった。レシピ通りの調味料や材料をキチンと揃えず、代用や目分量で作る私が十割方悪いと思う。

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しかし、麻辣湯はそのインフルエンサーさんに限ったことではなく、世間的に流行しているようだ。そのため、ほどなくして生活圏に専門店が出店した。いざ本物の麻辣湯、と思いきや、テーマパークもビックリな行列っぷりでまだ行けていない。

麻辣湯は専門店だと、具材を自分でセレクトするようだ。具材の種類や量で最終的な価格が変わるため、値段の見通しが立たない。そもそもどの具材を選べば良いのかも皆目見当付かない。並んでなかったとしても、そのハードルの高さで断念してしまいそうだ。麻辣湯マスターの友達を探せば良いのかもしれないが、友達が少ないので至難の業だ。

そうこうしているうちに、チェーン展開している中華ファミリーレストランでも麻辣湯が食べられるようになった。お手軽な値段な上に、具材を選ばなくても美味しい組み合わせがデフォルトでカスタマイズされている。麻辣湯デビュー戦には持って来いだろう。

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私は週に一回、ドリンクバーのある場所で作業をする時間を設けている。日記を書いたり、エッセイを書いたりするためだ。麻辣湯を提供しているファミレスにもドリンクバーがある。もうこれは行くしかないだろう。かくして私は溜まった日記と差し迫った締切りを抱えてファミレスへ向かった。

麻辣湯は3種類ある。普通と海鮮系豪華版とスタミナ版といったところだろうか。あまり魚介類に魅力を感じない人間なので、普通とスタミナ版の二択になった。豚ともやしがメインのスタミナ版に惹かれるけれど、私はこれぞ麻辣湯というものを食べたい。熟考の末、普通の麻辣湯を注文した。辛さのレベルも選べるのだが、私は辛味に敏感なので一番低い辛さにした。

ドリンクバーを嗜んでいると麻辣湯がやってきた。私は猫型配膳ロボットを期待していたのだが、麻辣湯は店員さんが運んでくれた。店員さんは悪くないが猫が良かったので、少しがっかりしてしまった。

運ばれてきた麻辣湯と対峙する。その名の通り、辛そうだ。スープを飲むと熱くて辛い。熱さと辛さは感じるけれど、おいしいかどうかわからない。

私が麻辣湯を食べたかった一番の理由は太くて平たい春雨麺だ。赤くて辛そうなスープと透き通った太くて平たい春雨が絡み合っているのが、なんとも魅力的に感じたのだ。私の手元の麻辣湯の麵はというと、提供されて間もないのに麺と麺同士でくっついて固まっている。ほぐすとかいうレベルではなく固まっている。

かくして念願の麻辣湯は熱さ辛さ、固まった麺に悪戦苦闘しながら食べたので、あまりおいしいと感じる余裕がなかった。おいしい、おいしくないよりも食べ終わった時、タピオカミルクティーが飲みたいと強く思ってビックリした。それだけ熱くて辛かったのだろう。

しかし、食べ終わってしばらく経った冷めたスープを飲んだらおいしかった。熱さと辛さで分からなかったが、いろいろと具が入っているのでそれらの出汁が出ているのか、複雑な旨味がある。具沢山の麻辣湯ならではのスープなのだろう。これは確かに具材を自分でセレクトする醍醐味があるかもしれない。専門店に行く楽しみができた麻辣湯デビュー戦であった。

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専門店はまだ混雑しているので、次はスタミナ版を食べに行こうとお店に行った。しかし麻辣湯は季節商品だったようで、メニューに一種類しかなく、トッピングも選べなくなっていた。流行り物の悲しき性である。メニューに残っているだけマシかもしれないが。でも流行ったからこそ出会えた麻辣湯。そうでもなければ、わざわざ辛いものなど食べないし。こうなると流行りが終わって専門店が撤退するのが先か、私が専門店に行くのが先かという話になってくる。とりあえず今日は、麻辣湯はまた今度、お預けだ。