初めて男の子を優しいと思ったのは小学2年生のときだった。初めて私を守ってくれた男の子だった。

背は低かったのにどんな大きい男の子より強かった彼。もう一度会えるなら、12年会っていない彼に私は会ってみたい。

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小学2年生のときの私はなぜか少しモテていた。そして、その年頃だから仕方ないのかもしれないが、好きの裏返しのような意地悪をされることも多かった。筆箱を取られたり、からかわれたり、などは日常茶飯事。大きな声を出す男の子が苦手だった私はそれがすごく嫌だった。「みんな〇〇さんと話したいのよ」なんて言って、男の子たちを庇う先生のことも嫌いだった。
そんなとき、いつも守ってくれたのが彼だった。「やめろ」、「〇〇さんにそんなことすんな」、そう言って彼が止めるとどんなヤンチャな男の子もバツが悪そうな顔をして意地悪をやめた。彼にはそんな不思議な力があった。

彼と私は仲が良いわけではなかった。ほとんど話したことはなかったし、私はそもそも男の子と仲が良いタイプではなかった。だから初めは彼が助けてくれることに戸惑っていて、助けてくれても「ありがとう」さえ言えなかった。なんで彼は私を助けてくれるんだろう。そう思っていると友達に言われた。

「〇〇のこと好きなんじゃない?」

本当にそうなのか。だって私のことを好きらしい他の男の子たちは意地悪ばかりしてくるのに、彼はあんなに優しい。意地悪なんてされたことない。それまで知っていた「好き」とは違う「好き」に戸惑った。だけど、こんな「好き」なら嬉しいかもしれないとちょっとだけ思った。

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秋のある日、私は彼の誕生日会に呼ばれた。女子で呼ばれたのは私だけ。行くか迷ったけど、彼に「誰か連れてきてもいいから、〇〇さんに来て欲しい」とお願いされたから、友達と一緒に行った。男子ばかりの誕生日会だったから行ったのはいいものの、ほとんど彼と話した記憶はない。だけど、私があげたプレゼントすごく喜んでくれたことははっきり覚えている。いつものお返しができたとほっとした。

それから、少しだけ話すようになった。隣の席になったときは、私が教えてあげた答えを発表して褒められると、「本当は〇〇さんに教えてもらった」と先生に正直に言っていた彼。私は発表なんてしたくないから、黙ってくれていてよかったのに。明るくて、まっすぐで、サッカーが大好きだった彼。クラスメイトから「〇〇さんのこと好きなの?」とからかわれても、堂々としていた彼。まるで太陽みたいな男の子だった。

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だけど、小学2年生の終わり、彼は関東に引っ越すことになった。お別れ会にも私は呼ばれた。帰りがけ、彼は私を呼んで鉛筆とカードをくれた。「誕生日会とか来てくれてありがとう」。カードにはそう書いてあった。
彼はちゃんと私に「ありがとう」と伝えてくれた。そのあとどう別れたのかは覚えていないが、私は結局彼にありがとうを言えなかった。

私の母は彼のことをよく覚えていて、彼の話をよくする。「本当にいい子だった」とよく言う。彼が私のことが好きだという話はお母さんたちの間ではちょっとした話題だったようだ。小学生の小さな恋。きっと今でもはっきり覚えているのは私だけだ。

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もしもう一度会えたら、彼は覚えていないかもしれないけど、私は「ありがとう」と伝えたい。「たくさん助けてくれてありがとう」。あのときは恥ずかしくて言えなかったけど、本当はあなたにたくさん救われたんだって。