この夏、私は人生で最も大きな「初めて」を迎えようとしている

8月生まれの私にとって、夏は特別な季節。振り返ってみると、私が人生で多くの「初めて」を経験したのは、夏だった。夏休みにはたくさん初めての場所に出掛けたし、初めての感情を味わった経験も印象に残っている。家族旅行のため、初めて早朝の街並みを車から見た時のドキドキは、今でも覚えている。
そもそも、記憶こそないけど、私が初めてこの世界に出て産声を上げた季節だ。私の『初めて』は、夏が中心になっているのだ。
ちなみに、母の誕生日は偶然にも私と3日違い。母の「初めて」も、夏から始まっている。
そんな夏の思い出が巡る中で、特に私の心に残っているのは、一昨年の夏の出来事。
私は趣味で、朗読劇の作品を作りライブに出演する活動をしている。とあるライブに出演することになり、私は新作を書くことにした。
「結婚式を控えた主人公が両親への手紙を書くため、自身の誕生月である夏の日々を過ごしつつ幼少期を振り返る。そして、少しずつ昔の記憶のかけらを拾い集め、言葉を紡いでいく」…大まかには、そのような内容だ。この主人公は、私でもあった。まさに同年、私自身も結婚式を控えていたし、両親への手紙を書く予定だったのだ。
この作品の執筆は、私に深い内省をもたらしてくれた。作中の主人公が幼い頃の記憶を辿りながら、両親の想いを改めて理解していく。その過程を描くことで、私自身も同じ心境になった。何かのきっかけが無いと思い出せないほど、小さな日常の記憶。そんな些細なところにも、手紙に書くべき言葉は存在している。主人公という存在を通して、私はそのことに気付かされた。
初めて大人として、自分の両親の想いと向き合えた夏。ライブと結婚式、それぞれを無事に終えて、私は自身の心の変化を実感することができた。まるでそれは、静かな朝凪にそっと吹き込むひと吹きの風のような、爽やかで眩い感覚だった。
そして、今年の夏。一昨年の経験を経て、私は人生で最も大きな「初めて」を迎えようとしている。私は、お腹の中の新しい命を出産し、母親になろうとしている。
偶然にも予定日は、私や母と同じ8月。日にちも私たちと近い。母、私、そしてお腹の子の「初めて」を、夏という季節が見守ってくれているような、そんな不思議な繋がりを感じている。
この文章を書いている今は、もうすぐ臨月。かつての両親も、こうして私の誕生を心待ちにしてくれていたのだろうか。お腹の中でポコポコと動く小さな命に手を添えながら、私は一昨年の夏と同じように、両親のことを考えている。
お腹の中の君はこれから、どんな「初めて」を私に見せてくれるのだろう。初めて君の声を聞く瞬間、初めて君を抱く瞬間、初めて君の笑顔を見る瞬間。一つ一つのかけがえのない瞬間が、とても待ち遠しい。
そして、君自身は、これから巡り来る夏を通じて、どんな「初めて」を経験できるのだろう。私が幼い頃に味わったようなことを、君もまた感じるのかもしれない。
今年の夏から始まる、君との「初めて」の物語。まだまっさらなそのページに、君と一緒に少しずつ言葉を紡いでいけることが、今から楽しみだ。
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