私の最愛の推しが、新型コロナウィルスに感染した。
直近で出演するはずだったイベントも出演中止になった。
イベント会場に行くため予約していた夜行バスや宿泊予定だったホテルのキャンセルを、危うく忘れるくらい私は心配した。
それと同時に推しがお仕事をお休みになって、私のやる気はパタリと出なくなった。
推しがゆっくりお休みしてると、張り合いがないと思ってしまった。酷いことを言っている。もちろん推しはゆっくり休むべきだ。
だが、どうやら私は推しのことをライバルだと認識しているようだ。だからこうなる。
少年漫画で主人公が憔悴している時に、ひょっこり現れて「お前がいないと俺も頑張れねえんだよ!」と叱咤激励する、主人公のライバルが浮かんだ。
たくましい推しに、いつの間にか私も感化されていった
ちょっと前までは、推しは私の代理戦争をしてくれるような存在だった。
歌やお芝居の素晴らしさを浴びるのがエンタメだというのに、芸能界は人気商売が主だし、プロデューサー側の人間とどれだけ上手くやれるかが大事だと聞く。
そんな過酷な中で闘う推しの姿は、何もうまくいかねえこのアラサーの代わりに世界に抗ってくれているようで、本当にたくましかった。
だが私はいつの間にか、そんな推しに感化され動いていた。これが俗にいう「頑張る」というやつだ。
毎日「この瞬間も推しは頑張ってんだろうな、私も頑張ろう」とやる気を出していた。推しが今どうしてるか想像し、自分のモチベーションをあげる。見えない姿に想いを馳せていたなんて、推し本人には絶対言えないけど。
それがどんどんパワーアップして、いつの間にか「推しも頑張ってんだから私も負けないぞ!」と謎の対抗心が出来上がっていたみたいだ。
推しを心配しているが、ダラダラしているのと変わりない
しかし、そんな推しが感染症にかかっているなんて。今どう考えてもベッドで寝込んでるやないの。
本当に心配しかできなくなる。毎日推しのことを思い出して、「推し、熱は下がったのかなあ」とついつい意味もなくSNSを探ってしまう。経口補水液をどうにか事務所に送れないかと調べたが、推しの事務所はコロナ禍の影響でプレゼント禁止になってしまっていた。そもそも事務所に届けても、そこから推しの家に届くまでラグがあるだろ。
そんなことを調べてぼ〜っとしてるなら、少しは資格の勉強をするなり家事をするなり有意義に時間を使うべきだが無理だった。
集中力が本当になかったし、しばらく1日の作業量がいつもの3分の1とかになってしまった。本気で心配しているけど、これは側から見ればダラダラしているのと変わりない。
「だから推し、あなたが頑張らないと私も頑張れないから、早く元気になってまた頑張ってくれ」と思ってしまう。
対抗心を持ち感化されるけど、妬みを一切持たないライバル
こんな気持ちは、推しも困惑するに決まってる。そもそも感染症を治すことも頑張ることにカウントされるのでは?と思うのだが、心配が勝ってそこまで頭が回ってなかったらしい。
とにかくまた推し本人に言えないことが増えた。
ただ実は推しとは同郷で同年代。性格面でも共通点が多く、親近感を感じやすいからそうなるのかもしれない。
そして、ライバルとはいえ、推しは推し。
推しが大きな作品に出ることが決まった、ライブが決まった、憧れの人と共演できた、人気投票で上位に食い込んだ、は全て「よかったでしゅね!!やった〜〜〜わ〜〜〜!!!!」とお祭り騒ぎになる。つまり妬むことは一切ない。だって推しの成功体験はオタクにとって1番嬉しいことだから。そして嬉しさから、また頑張ろうと思える。
バリバリに対抗心を持っていて感化されるけど、妬みを一切持たないタイプのライバル。これはなかなか出会えないものではないか。
療養中も歌の練習をしていた推し。少しは休んでくれ
そんな推しもようやく感染症が治り、復帰した。本当によかった。
復帰した知らせに涙が出るくらい安心した。
復帰後の生配信では推しの元気な姿を見ることができて、また推しの才能を感じれた。
元々上手だった歌がさらに上手くなっていた。推し、療養中だというのに歌の練習していたらしい。私が今の推しって寝てるだけよな……と思い込んでダラダラしていた時、推しはバリバリに頑張っていた。
負けた。少しは休んでくれ。
そして「そんな努力家に負けてられないな!」と、私のモチベーションはようやくメキメキと回復した。
大好きな人が頑張ってることがわかることは、最大のエンパワーメントになる。
これからは推しには、私のモチベのために、ライバルとして生きてほしい。
なんて「重!」という感情を持ちつつ、SNSや手紙で書かなければきっとセーフだろう。