夏はなんとなく新しいことに挑戦したくなる。
新しい髪型に挑戦したり、新しい服装に挑戦したり、旅行をしてみたくなったりと未知なる自分を見つけたくなる時期のように感じる。

◎          ◎

私は高3の夏、クラスメイトの男子を花火大会に一緒に行こうと誘った。
そのクラスメイトの男子は運動部で良い成績を残していて、勉強も頑張っていて、且つ爽やかだった。

好青年を絵に描いたような人で、先生からも信頼を置かれていた。
雑談をするたびに、彼の物事に取り組むまじめな姿勢と、特に部活へのまっすぐな想いが伺えて、その人柄に惹かれた。
いつも私と話すときは笑顔で私との会話を楽しんでくれてるように見えていたので、もっと仲良くなりたいと思って花火大会に誘ってみようという気持ちが湧いた。

しかし私は超奥手で、それまで誰かを誘うということをやったことがなかった。
絶対に無理なのだが、どちらかというと誰か私の気持ちを察して誘ってくれないかなという誘われ待ちのスタンスだった。

もちろん普段交流のない、もしくは脈なしの女子を誰も誘ってくれず、自分から誘うしか道は開けないと察した。

当然どうやってデートに誘うか全然わからなかったので、友達に相談した。

友達は親身に相談に乗ってくれ、相手がクラスメイトだということも考慮して、かわいく誘う文章を一緒に考えてくれた。
意を決してそのメッセージを彼に送った。

◎          ◎

不安と期待を胸にドキドキしながら返信を待っていた。
しばらくしてあっさりと、「別の人と行くからごめん」と返事があった。
断られた瞬間はちょっと落ち込んだが、その後も彼は私が誘ったことを噂にしたりはせず、クラスでは普通に接してくれたのでこちらとしても助かった。
やはり最初に思ったように好青年なイメージは変わらず、いい人だと思った。

半年ほど後にひょんなことから彼が花火大会に行った相手が判明した。
別のクラスの女子で、その子とは後々男女のグループで出かけるほど仲良くなる。
もちろん未だにその子には、あの高3の夏私はあなたが花火に行った相手を私が誘い、断られたのだとは言えていない。

毎年この時期になると、私が勇気を出して誘って失敗した花火大会が今年も開催されるというチラシが掲示される。

それを見て、毎年あの高3の夏には断られたなとブルーな気持ちになる。
かといって今年はその花火大会に誰かを誘えるかと言うと、そういうわけではないので、早くこの負のループから抜け出したいと切実に思う。

◎          ◎

最近では夏の暑い時期を避けて開催する花火大会もあるという。
そうなると、夏休みに勇気を出して誰かを花火大会に誘うということも、減ってしまうのだろうか。

たとえ秋に開催されたとしても、花火大会は花火大会なのだから、一緒に行く口実にはなる。

しかしやはり夏に開催される花火大会だからこそ、夏の暑さからくる期待感と、未知なる自分になりたいという想いに背中を押されて、私の場合は勇気を出して誘えたのだと思う。