「声大丈夫?」と言われ続けた私が受け取った「声好きですよ」の威力

私の声は少し変だ。
緊張すると声が震えるし、調子が悪い時は言葉が喉で突っかかることもある。
原因は、高校生の頃に風邪を引き、喉が痛いのに無理やり声を出し続けていたから。
そのせいで、私は一生この声で生きていくことになった。
声が変になったとき、色んな病院に行っては検査をしてもらった。
小さなカメラを鼻から差し込まれ、喉の違和感からオエッとなりながらも、原因がわかるならと我慢してきた。
でも、どの病院でも「異常なし」と言われた。完全に心理的なものだったのだと思う。
大学進学を機に上京し、新しくできた友人たちから「声大丈夫?」と言われることが、少しだけ心に刺さった。
始めたアルバイトの接客でもお客さんに同じことを言われるたび、「あぁ、私の声は変なんだな」と心の奥で泣いた。
もう、私の声は元に戻ることはないんだと、受け入れることはまだできていなかった。
そんな風に大学生活が終わろうとしていたとき、あまりにも悩みすぎた私は、関西の病院まで行って検査をしてもらうことを考えていたくらいだった。
声と向き合いすぎて病みかけていたある日、卒業間近に仲良くなった後輩から言われたことが、私の世界を照らしてくれた。
「後輩たちで話してたんですけど、先輩の声好きですよ!」
今なんて言った?と聞き返すくらい、今まで言われたことのない言葉だった。
100人に「声大丈夫?」と言われ続けてきた中で、1つだけ投げ込まれた「声好きですよ」は、私にとって嬉しいなんて言葉じゃ片付けられないほどのものだった。
その後、当時のバイト先の後輩に「私の声って変だよね?」と聞いたら、「え?そうですか?私は好きですけどね」と言われた。
なんてことだ。私の声が変なのは事実だとしても、周囲の人はそんなに気にしてないってこと?と混乱しつつ、もしかしたら私自身が気にしすぎているのかもしれないと思い始めた。
月日が経った今でも、私の声は昔みたいに戻っていない。
でも、最近は色々動く仕事を始めたからか、筋肉がついたからなのか、声を出しやすくなっている気がする。
それでも、たまにお客さんから「声大丈夫?」と言われることもあるが、「あ、大丈夫ですー!」と明るく返せるようになった。
それは、私の声が好きだと言ってくれる人がいるから。
付き合って5年半となる彼は、卒業間近の私を救った後輩たちの中の1人だった。
彼は、ふとした時にこう言う。
「あなたの声は低くて落ち着く声だから、好き」
きっとこの先の人生の中で「声大丈夫?」と聞かれる回数は増えていくばかりだろう。
それでも、私の声を好きだと言ってくれる人が近くにいるなら、私は私のままで生きていようと思える。
ずっと元に戻したくてコンプレックスでしかなかったこの声も、なんだかんだ誰も気にしてなかったりするし、私自身が大丈夫ならそれでいいのだ。
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