オタクになり手に入れた行動力で、私はどこへでも行けるようになった

自分に足りないものなど山ほどある。
目は大きくないし、鼻も高くない、特別美人ではないし、スタイルもよくない。加えて愛嬌はないし、愛想もない、コミュニケーション能力なし、上手く笑えないし、伝えたい言葉は出てこない。
そんな感じで異性との関わりもあまりなく、もともと恋愛体質ではないから問題はないが、周りの女子達が恋に一喜一憂している様子を遠巻きに眺める学生時代だった。
ある日、友達がとあるアイドルがかっこいいという話をし始めた。芸能人に疎かった私でも知ってはいた彼の画像やら動画やらを半強制的に見させられているうちに、私はその彼と同じグループの別のアイドルが気になり出した。そういえばこの人かっこいいような、から始まり、新しい扉が開き片足を沼に突っ込み気が付けばもう自力では抜け出せないところまで来ていた。14歳、私のオタク人生が幕を開けた。
オタクというのはオタクになる前の記憶を失くすものだとどこかの誰かがツイッターで言っていた気がするが、あれは大概正しいと思う。学校から帰れば推し(という単語すらまだなかった)が出演しているテレビ番組を見漁り、まだ今ほど普及していなかったYoutubeを駆使し、アイドル雑誌を探しに本屋に足を運ぶのが当たり前になった。ハマりたての勢いに身を委ね、彼氏ができた途端あっさり足を洗った友達はそっちのけ、一人オタク街道を突き進んだ。
大学生になると、金銭的にも時間的にも余裕ができ、より一層オタク生活に精を出した。運よくライブのチケットを手に入れ、新幹線に乗って向かったのは東京。初めての東京ドームはそれはそれは大きくて、レーザーをはじめとする無数の照明にはじまり、炎や水を使ったド派手な演出に目を奪われた。米粒サイズの推しを必死に探し、団扇とペンライトをぎこちなくも懸命に振った。初めての「遠征」をクリアした、今でも日付まで覚えているあの日のあの夜は、私の人生において歴史的な瞬間となった。
それ以来、私はたがが外れたように日本各地に遠征するようになった。その際必須となるのは、交通手段と宿泊先の確保だ。あらゆる旅行サイトや乗り換え案内で検索しまくり、できるだけ安くすむルートを探した。夜行バスだと交通費が抑えられ宿泊費もかからないので、特に学生時代は御用達だった。年を取るにつれて、せっかく他県に行くならついでに観光もしたいと欲深くなり、各地の観光スポットや名物を下調べしてから現地に向かった。インターネットが普及している時代に生まれて本当によかったとつくづく思う。
そんなこんなで、私は一人でどこにでも行けるようになった。国内はもちろん、海外旅行の場合でも、航空券やホテル、現地でのカーチャーターやツアー、レストランの予約など、すべての手配をして工程表まで作るほどである。ここまでやる必要はない場合もあるが、もともとの性格も相まって、より効率的に楽しめるよう尽力するのが当たり前になった。今の私はグーグルマップがあればどこへでも行けるのだ。
オタクになると失うものは多い。彼氏はできないし(※人による)、いつでも金欠だし、時には現実を見ていないイタい人だと思われることもある。しかし、それ以上に得るものも多い。ここまでのリサーチ力と行動力はオタクにならなかったらきっと手に入らなかっただろう。そして何より、その行動力の先には計り知れないほどの幸せが待っていたのだ。誰かに頼るのも悪くないが、私は自分で行動してできることが増えた今の自分が好きだ。
「ちょっと気になる、行ってみよう」ができると、人生は豊かになる。これからも私は行動してみた先の幸せを掴み取るため、オタク人生を突き進んでいく所存である。
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