イギリスでの3週間が、ついに終わってしまった。

今私は日本に向かう飛行機の中。滞在していた大学から空港へのバスでひとしきり泣き、飛行機に乗って感傷に浸り、それから疲れてしばらく寝たところだ。

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いろんな意味で想像以上の3週間だった。

まず、環境が素晴らしかった。街並みや店の感じなど全てが新鮮で、毎日映画の中にいるような気分だった。何より、歴史的な建造物が本当に多い。細かい彫刻やステンドグラスの装飾、至る所にある偉人の記念碑など、感動の連続だった。首都ロンドンから少し離れたところに滞在していたので自然も豊かで、毎日鳥やリス、牛、馬などが身近にいた。週末の旅行で鉄道に乗り、少し北に行くと、羊の放牧まで見ることができた。

寝台列車の窓からの景色は格別で、文字通り窓に張り付いて見ていた。イギリスは平坦な地形なので日本でよく見る高い山がほとんどなく、地平線までしっかり見える。それが景色の雄大さを増幅していた。雨が短時間で止むのも良かった。傘が要らないというのも納得だった。帰って久しぶりに日本の雨に遭遇したらちょっとうんざりしそう

現地でお世話になった、授業を担当していただいた先生方、学生アシスタントの方々、プログラムに関わっていただいたすべての方々も素晴らしかった。英語の授業がこんなに楽しいものになるとは知らなかったし、私の拙い英語に笑顔で答えてくれて、自信を与えてくれた。私の名前を覚えてくれた方も何人かいて、最後の見送りで呼んでもらった時は感動した。彼らのおかげで国際交流への意欲が増したと思っている。

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研修に一緒に参加した、同じ大学の仲間も素晴らしかった。何度か事前に顔を合わせたことがあったにも関わらず、日本にいる間はなかなか距離が縮まらなかったので正直不安だった。だが、実際に共同生活に身を置いたからだろうか、現地に行ってから急激に仲良くなれた。男女関係なくこんなに話せる仲間なんていつぶりだろう。様々な学部出身の人がいたことで、彼らから学ぶことも多かった。

理系だからというのは言い訳にしかならないが、私は歴史に疎い。事前に色々調べたが、そんな付け焼き刃では遠く及ばない深い知識を持った人が多くて、刺激を受けた。しかも、その知識を私にも分かるように噛み砕いて提供してくれるのだ。意識してその人たちと関わるようにしてからは、毎日歴史の話を浴びるように聞き、本当に楽しかった。

しかも博物館や街中に題材が実物として存在しているのだから、感動が桁違い。本当に感謝しかない。集団でイギリスに行った意味、教養を持つ意味が分かった気がする。この繋がりはこれからも維持していきたい。

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研修が後半に差し掛かった頃、引率をして頂いている教授に、この研修を通して一番感じていることについて聞かれた。色々な感情が渦巻いていて言葉にするのは難しいと思いつつ、最初に出てきたのは、「自分の教養の無さが分かって悔しい」だった。

もちろん、楽しいことも多かった。だが、仲間から歴史の話を聞く度に、博物館や美術館の立派な展示を見てもそれが何なのかピンと来ない度に、立派な建造物を前にした時の、持っていた知識と実物が結びついて感動している友達とそこまでの領域に達していない私のリアクションの違いを感じる度に、悔しさともどかしさでいっぱいになった。

こんなにも専門外の知識が、教養が無いことを嘆いたことがあっただろうか。大学で使う知識は限られているし、他学部の人と話す機会も多くないので専門外のことに意識を向けたことはほとんど無かった。私がこれまで、特にここ数年間においていかに、専門分野についてどれだけ知っているか、それがどれだけ使えるかだけを考えて生きてきたことを思い知らされた。

この次に歴史的に重要なものが目の前に現れるのはいつになるかは分からない。でも、その時に取り出せる知識の量が人間として大切なのかもしれない。もちろん、歴史に限った話ではない。私の専門である生物の知識だって、化石や標本を見る時に使える。実際今回の研修の中でも友達に伝える機会があった。でも、もっと深く、もっと色々知っていたいと思えた。使える知識、生きた教養についても考えさせられた研修だった。

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こんなことを学ぶなんて、出発前の私は想像もしていなかった。とにかく英語を使って現地の人と話すこと、それしか考えていなかった。そのこと自体、視野が狭かった。仲間と過ごすことで英語以上に学ぶことがあったと言っても過言ではない。イギリスという素晴らしい環境に身を置いて、優秀な仲間に恵まれて、本当によかった。研修の感想が「楽しかった」だけで終わらなくてよかった。いい意味で、予想外の研修だった。

異国の地で3週間過ごしたことは、これからの挑戦のハードルを大きく下げてくれたと思う。帰りたくないと街並みを見るだけで涙が溢れるくらいには、心の拠り所になっていた。
カリキュラムの都合上、長期留学は厳しいかもしれないが、必ずまた海外への挑戦をするだろう。そしていつか、イギリスに戻ってきたい。