先輩とは実際のところ何なのだろう。後輩に指揮をとれる人。後輩には持っていない優れた力を発揮できる人。後輩の悩みを理解し、的確なアドバイスができる人。後輩が気づかないところで、後輩のために動くことができる人。この世の中にはたくさんの先輩という形があるのであろう。

その中でも、私は先頭に立って、皆を引っ張っていく頼りがいのある先輩でもないし、何か後輩より優れているものがあると感じたこともないし、後輩の相談事に対して、いいアドバイスができた試しもない。そんな私でも、一つ心がけていたことがある。それは後輩にとって、安心できる居場所になることである。

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高校二年生のとき、私は合唱部の一部員だった。他の子は合唱部の執行や他のことで忙しくしている中で、私は一人で寂しそうにいる子に話しかけ、何かここに来て楽しかったと思ってもらえるようにたくさん話しかけた。後にそのうちの一人の子が「先輩が始めのころ話しかけてくれて、ここに来ることが楽しくなりました」と言ってくれて、本当に嬉しかった。

でもこれはれっきとした先輩の任務を果たせていると言えるのだろうか。私は結局、後輩に対して何か誇らしいことはできなかった。きっと私は未だに自分に自信がない。そういう人は特に10代は多いのではないだろうか。自分には何も自信が持てるものがない。

今はまだ克服しつつあるが、高校生の半ばまでは極度と言っていいほどの人見知りであった。クラスの子にあっても、会って話をするだけでも顔がひきつるし、何でこんなことしかしゃべれないんだろうと自己嫌悪に落ちるばかりで、ろくに会話もできなかった。

そして自分の殻にふさぎ込み、人との距離だけがうまれていった。きっとこの状況に陥っていたのは自分に自信がなく、人の目ばかりを気にしていたからだと思う。相手に好かれたい、嫌われたくない。だからこそ、会話の途中で少しでもぎこちなくなると、その場が怖くなり、逃げ出したくなるような自分だった。今も正直この性格は健在ではある。

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しかし私の人生の中でも、自分自身が変わるきっかけとなる出来事があった。それは大学生になって自分の地元である大阪から東京に上京し、初めての場所で、初めての寮生活を経験をしたときのことである。

家族以外の人と住み、生活においては自分で責任をもって行動するをする環境になって、初めて親のありがたさを知ったのもあるが、自分で「こんなことまでできるようになった!!」という喜びが徐々に自分の自信につながっていった。また今まで自分とは違う環境で、過ごしてきた人たちと住むことによって、今まで自分が気づけていなかったことに気づくことができ、自分の視野が広がり、いろんなことに感謝できるようになれたし、私にもできるかもしれないと大きな目標を持つことができた。

そこから少しづつ、人前で自分のありのままの姿をだせるようにできるようになっていった。そして、昔の自分では想像できないくらい積極的に動けるようになってきた。また、そんな自分を少しづつだが愛せるようになれた。

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このように成長できたのには一人の先輩の存在がある。ある時私は挑戦したいと思っても、周りにどう思われるのかが怖くて、ウジウジ迷って辞めようかなそんな気でいた。しかし先輩は私の紆余曲折した話を最後まで聞いてくれ、一言「やってみたらいいんじゃない」と私の臆病な心を軽くしてくれ、私の背中をポンっと押してくれた。

怯えながらも、私もやってみなくちゃ分からないと思い、結果的に勇気を出して挑戦することができた。そこから自分に対して、少しだが自信をつけることができたし、また挑戦してみようかなと挑戦に対して、楽しさを覚えることができるようになった。

しかし、自分の性格というものは中々変わらないもので、何回も人目を気にしたり、負の方向に考えがちになって、尻込みして挑戦することをあきらめそうになる。

そのたびに周りの両親、友達や先生が話を聞いてくれ、「いいじゃん。まずはやってみなよ!」と背中をおしてくれる。私にとって、この積み重ねが自分の前に進む原動力であり、人は一人では生きられないと思える瞬間でもある。
だからこそ、そこの自分に自信のないあなた。自分の将来の可能性をあきらめているそこのあなた。

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まずはあなたのとなりにいる人に話を打ち明けてみたらどうだろうか。口に出してみるだけで今あなたの奥底でもモヤモヤして、何か引っかかっていることが、案外深刻なことではないかもしてないと気づくことができたり、もしかしたらできるかもと自信をもてるかもしれない。

そしたら、あなたも相手の悩みを聞いて「やってみなよ」と背中を押せる人になれるかも知れない。この連鎖がたくさんの先輩を生み出していくのではないだろうか。
そしてこの連鎖の先に、もしかしたらあなたが想像してもいなかった未来が切り開かれているかもしれない。私は春から大学二年生になる、つまり先輩になる。これからの私はどんな先輩になれるのだろうか。