子供の頃は、知らない大人について行ってはいけないと教えられていた。だが自分が大人になったらどうだろうか。新しく出会う人の全ては知らない大人と言える。だから自分で判断して付き合う人を選ぶ力が必要だし、自分の判断でいくらでも人脈を広げられる。

それが子供と違うところだ。私は大人になってから、初対面の人とその場で連絡先を交換して友達になったことが二度ある。子供の頃の感覚でいったら間違いなく「知らない大人」だし、警戒する気持ちが1ミリもなかった訳ではない。それでも私は自分の目を信じて、その人と友達になることを選んだ。

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一人目は同い年の女の子だ。

その日、私は会社の同期と二人で居酒屋で飲んでいた。同期はフットワークが軽くて、見る人によってはチャラチャラしていると捉えられてしまうような、自由奔放な女の子だった。対して私は真面目で堅くて、しかも当時20歳になったばかりというのもあって、飲みの場に慣れていないし、なんだか垢抜けなかった。

美味しい牛タンをつまみながらしこたま飲んで二軒目にいったのは、バーだった。同期に連れられるがままに、バーに入るという意識もなく、カウンター席に座った。初めてのバーにガチガチになるかと思いきや、お酒が入ってテンションが上がりに上がった私は、大声で同期やマスターと喋り続けた。

そんな中、後から入ってきたのが、後に連絡先を交換するに至った女の子だった。彼女はその店の常連だった。同期は何度か会っているようだった。彼女は明らかに私とタイプが真逆な、夜の街が似合う、大人っぽい女の子だった。

学生だったら、私はクラスの隅で本を読んでいるタイプで、彼女はクラスの中心で大勢に囲まれているタイプ。普段の私だったら絶対に話すこともなかっただろう。でもその日は相当飲んでいて、彼女と会話することに何の躊躇いもなかった。

何を話したかはよく覚えていないが、彼女が私をえらく気に入った様子だったのは覚えている。一見真面目で子供っぽい私がお酒の力で明るく振る舞う様子が面白かったようだ。今思えば単に馬鹿にされていただけかもしれない。翌日彼女のSNSのアイコンを眺めて、なんだか昨日はお酒の勢いですごいことをしたな、という感慨にふけっていた。

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二人目は、一つ歳上の女の子だ。

秋葉原のメイドカフェに通い詰めていた私が、今まさに店内に入ろうとしているときのことだった。明るい茶髪をツインテールにして、ミニスカートからは細い脚が露わになっている、それでいてハイブランドのスニーカーを履いた彼女に、声をかけられた。彼女はスマホの画面を私に見せた。

「この子に会いたいんですけど、どこに行ったらいいですか?」

そのメイドカフェは同じ建物内に店舗がいくつもあり、目当てのメイドさんがどの店舗にいるか把握しておく必要があった。私はアプリを開いて、彼女の目当てのメイドさんを探した。生憎、その日はお給仕が入っていないようだった。

「お姉さんの推しはどの人ですか? 一緒に行ってもいいですか?」

それから二人で一緒に店に入って行った。

メイドさんがいないときに、二人でいろんな話をした。彼女もまた、私が普通に生きていたら交わることのないタイプの、都会っぽい子だと思った。でも嫌な気はしなかった。お互い可愛い女の子が好きという共通点があったからか、自然と話が弾んだ。

次の目的地が二人とも山手線沿いだったので、電車移動も共にした。駅のホームでツーショットを撮った。今度は彼女が通っているという新宿のコンカフェに行こうと言って別れたが、予定が合わず、実現することはなかった。

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結果的には二人とも、今は連絡を取っていない。その場で連絡先を交換しただけの関係になってしまった。でも私は、二人と友達になったことを後悔していない。初対面の人と打ち解けられたという経験は、私の自信のひと欠片になっている。こんな風に友達を作るのもまた、大人だななんて思う私は、まだまだ子供だろうか。